嘉納「いや~ お待たせしてすんまっせん。」
葉山「いや こちらこそ 突然押しかけてしまって 申し訳ありません。」
嘉納「約束のものを ここに。 おい。」
葉山「では 確かに。 おい! やめないか。」
蓮子「このお金…。 一体 どういう事です?」
嘉納「お中元たい。」
蓮子「お中元? ご冗談を。」
嘉納「よかやろうが。」
蓮子「何がいいんですか!」
葉山「では 私は そろそろ。」
蓮子「お兄様!」
葉山「蓮子 くれぐれも 分かってるな。」
蓮子「お兄様 お待ちください! 兄に お金を渡すなんて 一体 どういうおつもりですか! しかも あんなに たくさん!」
嘉納「お中元ち 言うとろうが。」
蓮子「甘い顔をしたら 兄は 何度でも無心に来ますよ。」
嘉納「金がかかるちいう事は 前から分かっちょった。」
蓮子「はっ?」
嘉納「お前の結納金で 貴族院議員になって その上 事業にも いろいろ手を出しちょるそうじゃ。 どれも うまい事いっちょらん。」
蓮子「なぜ あなたが 尻拭いをなさるんです?」
嘉納「お前のために払う金と思うたら 惜しいこたない。」
蓮子「お金… お金 お金! あなたは いっつも そうです! 私は 芸者ではありません!」
嘉納「フフフフフ 何を言いよるとか。 こげな高い芸者がおるか! ハッハッハッハッハ。」
蓮子「フフフフ…。 フフフフフ! フフフフフ! アハッ! アハハハハ…! アハハハハ! アハハハハ!」
<それからというもの 教養がなく 芸術を理解する心も 持ち合わせていない伝助に 当てつけるように 蓮子は 頻繁に お屋敷で サロンを開くようになりました。>
蓮子「これは?」
黒沢「お招き頂いたお礼にと 思いまして。」
蓮子「なぜ 竹久夢二なのかしら?」
黒沢「彼の描く女性は すばらしいですよ。」
蓮子「あなた こういう かれんな女性が お好きなのかしら?」
黒沢「絵としては すてきです。」
蓮子「あら そう。 それじゃあ 私のような女は どう思って?」
黒沢「竹久夢二に 是非 描かせたいですね。」
蓮子「あなた お名前は?」
黒沢「あっ 申し遅れました。 東西日報の黒沢と申します。 嘉納伝助さんに 取材をお願いしてるんですが なかなか ご承諾頂けなくて。」
蓮子「主人に取材? やめなさいよ そんな つまらない記事。 ねえ 黒沢さん。 いつまで そうやって 突っ立ってらっしゃるの? 」
黒沢「失礼して 飲み物を取ってきます。」
蓮子「ここにあるわ。 乾杯。」
<蓮子が そんな事になっている頃…。>
料亭
徳丸「吉太郎君 入営おめでとう! お国のために こぴっと頑張れし! ほれじゃあ 乾杯!」
一同「乾杯!」
(拍手)
ふじ「おかあまで晴れがましいだよ。」
徳丸「いや~ めでたい! おめでとう!」
周造「今日は こんな 盛大なお祝いをしてもろうて ありがとうごいす。」
ふじ「本当に ありがとうごいす。」
徳丸「ふじちゃんも 立派な息子持って 鼻が高えら。」
ふじ「ええ…。」
徳丸「まあ ほう さみしがらなんでも 兵隊暮らしは 2年だけじゃん。 吉太郎君! 兵役が終わったら また こっち戻ってくるずら?」
吉太郎「ほれは…。」