嘉納邸
「いや~ すばらしいな。」
「すばらしいわ。」
「尊敬致しますわ。」
蓮子「どう?」
黒沢「『誰か似る 鳴けよ唄へと あやさるる 緋房の籠の美しき鳥』。」
蓮子「ご感想は?」
黒沢「あなたは ご自分の事しか 愛せない人だという事が よ~く分かりました。」
蓮子「ええ。 私 かわいそうな自分が 大好きなの!」
(ドアが開く音)
蓮子「あら どうなさったの? こんな時間に。」
嘉納「悪いか。」
「失礼致します。」
黒沢「嘉納さん。 東西日報の黒沢と申します。 うちの取材は いつになったら 受けて頂けますか?」
嘉納「ああ そんうちな。」
黒沢「受けて下さるまで 何度でも伺います。」
嘉納「また 短歌っちゅうやつか? こげな紙切れ 一銭にも ならんばい。」
蓮子「あら 歌だって お金になるんですよ。」
嘉納「ほう。 そら どげしたら 金になるとや?」
蓮子「本にして出版するんです。 当然でしょう。」
嘉納「腹の足しにもならんもんに 金出すやつの気が知れんき。」
蓮子「じゃあ もし 私の歌集を出して それが 売れに売れたら どうなさいます?」
嘉納「おう。 博多の町を すっぽんぽんで 逆立ちして歩いちゃる! ハッハッハッハッハ!」
蓮子「どこまで 下品な人なの…。」
嘉納「お前が作る本やき さぞかし上品ぶった本が 出来るっちゃろうね。 ハハハ。」
蓮子「じゃあ 作りますよ。 お金出して下さるんですね。」
嘉納「おう! この嘉納伝助の嫁が作る本ばい。 やるなら 金に糸目は つけんでよか。 飛びっ切り 豪勢なもん 作っちゃれ!」
蓮子「もちろん そのつもりです。」