善行「ご飯にしてくれ」
晴海「はい はい」
純「お父ちゃん!」
晴海「純 ご飯終わってからでいいで いいさ」
正「そうだよ」
純「お父ちゃん! 大学3年の秋ちゅうたらさ 就職セミナーとか始まって 進路決めないといけないじゃない?」
善行「分かり切ったこと言うな お前 何が言いたいん 言えはよ」
純「これ」
善行「ふ~ん」
純「お父ちゃん 私に ウチのホテル 継がせて下さい 私ね 10年前 大阪から 引っ越してきた時 おじぃが作ったホテルを見て ここは 魔法の国なんじゃないかと思った 来た時に暗い顔したお客さん みんな笑顔になって帰るからさ でも お客さんの顔見てるうちに分かったの ウチのホテルに泊まった人は みんな 嫌のこと全部 忘れて『ああ ずっと ここに居たい また絶対来よう』って 気持ちになるんだって でも今はさ」
善行「でも今は でも今はなんや?」
純「だから… お客さんが あんまり笑ってないような気がして」
善行「おい ご飯 はよしてくれ」
晴海「はい はい」
善行「しゃーないやろ お前 俺のせいやない 観光局のの方もな 客を呼ぶ努力とかインフラの整備すべきなのに 全然動かへんからや それにな次の社長は 正に決まってる 長男なんやしな」
純「えっ だって お兄ちゃん ホテル継ぎたいなんて ひと言も言ったことないもんね」
正「俺はマインドとしては ホテル経営に興味はあるし」
純「じゃあ何? お兄ちゃん ウチのホテル このままで良いと思ってるわけ?」
晴海「ねえ お父さん とりあえず純が ウチのホテルで働くのは問題ないんじゃないの?」
善行「社長の経営方針に従うんやったらな こいつが」
晴海「純 そうしよう」
正「まあ ベストチョイスかな」
純「私は おじぃのホテルが これ以上駄目になるのを見ているのが嫌なの」
善行「なんやと?」
剛「うっぷ」
善行「うるさい お前 外で吐いてこい!」
純「お父ちゃんが 嫌々社長やってるんなら もう辞めた方がいいんじゃないか って 言ってのよ」
善行「誰が 嫌々や!」
純「だって 嫌々やってるじゃない! 10年前 大阪で仕事失敗したから 嫌々 お母ちゃんの実家に帰って 仕事がないから 嫌々 ホテル手伝って おじぃが死んだから社長になっただけでしょ?」
善行「人の苦労も知らんと 偉そうに言うな! お前は! お前みたいなやつはな 傲岸不遜と言うんじゃ! そんな言葉も知るまい あとで辞書引いとけ お前みたいなアホたれは!」
純「ウチのホテルはね 穴だらけの船なの 気づかない内にね どんどん沈んでるの その場しのぎで 穴埋めようと したって無駄なの! 船を心から 愛して ちゃんと行先 決める人が船長にならないと 沈んじゃうんだって!」
善行「おどれは 何様じゃ! 出ていけ 今すぐ出ていけ! 何じゃこんなもん」
善行「言うとくがな 俺が死んでも あのホテルはお前には譲らん この家にも二度と 敷居またぐな! 今度姿みかけたら 俺がたたき出す 出てけ!」
晴海「純 落ち着いて」
純「お母ちゃん 悪いけど こんな 家 二度と戻ってこないから」
晴海「ちょっと 正 なんとかしてよ」
正「純」
剛「母ちゃん ごちそうさま」
純「お父ちゃん! 私 いつか ウチよりでっかいホテルの社長になってやるから おじぃみたいな 魔法の国 絶対作ってみせるから!」
晴海「純 純 ちょっと ちょっと 待って ありがとうね お母ちゃんは ずっと 思ってたこと言ってくれて おじぃのホテルは 魔法の国だって」
おじぃ ごめんね 私 宮古には戻らないと思う