玄関前
糸子「ほんま あのアホ娘が。」
「お前ら もうちょっと頑張らな あかんぞ。 気合い 入れてな。」
糸子「あ!」
「今度の選抜から 外さな あかんよう なるからな。」
糸子「先生! ご無沙汰してます 先生。」
「いや こっちこそ。」
糸子「いつぞやは ほんま すんませんでした。」
オハラ洋装店
「ハハッ よう分かります。」
糸子「そうですか?」
「ええ。 聡子さんは そうゆう子ぉですわ おかあさん。」
糸子「どうゆう子ですやろ?」
「その『学校 やめたい』ちゅうんも 根性がのうて 言うてるんと ちゃうんです。 聡子さんの根性は もう ごっついもんです。 10km走れ」ちゅうたら 必ず走る。 腕立て200回 素振り1,000回。 やれちゅうた事 やらんかった事は 一回もありません。 やりきるか 倒れるかの どっちかでした。」
糸子「はあ…。」
「あいつには とにかく でっかい山を ド~ンと置いちゃる ちゅう事が 大事なんです。『この山を登れよ』ちゅうて 言うときさえしたら どんだけ しんどても 脇目も振らずに 登っていく。 ハッと気ぃ付いたら もう えらいとこまで 行ってるんです。」
糸子「はあ…。」
「やる気がのうて『学校 やめたい』言うてるんやない。 がむしゃらに 洋裁をやりたいだけ ちゃうやろか。 自分には そんな気ぃします。」
<持つべきものは 中学校の恩師です>
糸子「先生…。」
「は?」
糸子「おおきに。」
「いえ。」
糸子「ほんま おおきに。」
<早速 山を ド~ンと 置いてみちゃる事にしました>
2階 寝室
糸子「お母ちゃんのデザイン画や。 今日から こんで練習しい。 見んでも 同じように 描けるようになったら 学校 やめさせちゃら。」
聡子「はい。」
<最初は それが 山やちゅう事すら よう分かってないようでした>
オハラ洋装店
(ミシンの音)
(柱時計の時報)
糸子「は~…。 さあ 寝ようか。」
2階 寝室
糸子「はれ あんた まだ 起きてんかいな。」
(紙の破れる音)
糸子「あ…。」
聡子「はれ~。」