<あれから 聡子は 結局 洋裁学校をやめて 店を手伝う事になりました。 まだまだ 抜けたとこは あるもんの とにかく真面目で 熱心やよって それなりのモノには なりよるやろ>
優子 里恵「ただいま~!」
松田「お帰り!」
糸子「は~い 里恵ちゃん! 歩いて来たん?」
里恵「うん。」
糸子「う~ん えらかったなあ!」
優子「よう言うわ。 ほんのそこまで ずっと抱っこやったやんか! あんた!」
里恵「あ ばれちゃった。」
糸子「あ!」
(笑い声)
優子「おいで!」
糸子「そうだ うん!」
(笑い声)
2階 寝室
優子「まあ 基礎は出来たんちゃうか。」
聡子「ほんま?」
優子「うん。」
聡子「お母ちゃんも そない言うてくれた。」
優子「けどな こっからなんやで ほんまは。」
聡子「え?」
優子「まあ あんたが どの程度の 洋裁屋に なりたいかやけど。 要はな 普通の職人で ええんやったら もう十分 一人前や。 けど うちとか 直子くらいの デザイナーになりたいんやったら こっからが勝負ちゅう事や。 お母ちゃんとも うちとも 直子ともちゃう あんたの色ちゅうもんを 自分で見つけていかなあかん。」
聡子「うちの色?」
優子「うん。 それが一番 大変なんや。」
オハラ洋装店
鳥山「こんにちは!」
昌子 糸子「いらっしゃい!」
鳥山「どうも 聡ちゃん いてる?」
聡子「ああ こんにちは!」
鳥山「聡ちゃん 元気?」
聡子「元気ですよ! お元気ですか!」
鳥山「はい 元気 元気!」
優子「うわ! 鳥山さんや。」
鳥山「ありがとう!」
昌子「鳥山さん! 今日はもう…。」
<鳥山さんは 洋菓子屋の女社長さんで ごっつい強烈に 自分の好みが あるようなんやけど それが うちらには さっぱり分かりません>
聡子「そんで 今日は うちに何の用ですか?」
鳥山「いやあのな あの こんな事 言うたら何やけど 悪いけど あんたとこの お母ちゃんのデザイン 何か ババくさいやろ? 優子ちゃんのは 澄ましきっちゃって 何か息苦しいし。 せやさかいに… なあ 小原さん ええやろ?」
糸子「は?」
鳥山「うちな 聡ちゃんに デザインしてほしいんや。」
糸子「聡子?」
鳥山「うん。」
糸子「いや あかんあかん。 この子 まだ そない 一人前ちゃうし。」
鳥山「ええやん! せやから うちが第1号や。 聡ちゃんの若い感覚で ごっつい イカした服 こさえてほしいんや。 な!」
聡子「うん!」
鳥山「ええやろ? うん。 この私が 頼んでんやで!」
糸子「はあ。」
鳥山「な?」
優子「断ったらええのに。 絶対 ロクな事なれへんで!」
糸子「いや せやけど 本人が 聡子がええ ちゅうもんは 断れんがな。」
優子「あの人な うちん時も そうやってん。 好きに作って~ ちゅうて あとで絶対 文句言うねん。『こんなん うちの好みちゃう!』ちゅうて。」
聡子「ほな どんなんが好みなん?」
糸子「それが さっぱり。」
優子「分かれへんねん。」
昌子「分かりませんねえ あの人。」
糸子「派手なんが ええんか 思たら うちの事 チンドン屋と思てんの! ちゅうて怒るしな。」
優子「地味にしたら地味にしたで 怒るしなあ!」
糸子「なあ!」
昌子「あ ほな 直ちゃんの服なんか 好きなん ちゃいますか?」
糸子「いや 直子の事は 面が気に食わへんやて。」
優子「ハハハ!」
糸子「『あの子はこの店 置かんといて。 うち 来んようになるでえ』ちゅうちゃった。」
優子「ほな 置いちゃったら ええやん。」
昌子「ほんまや 魔よけ代わりになあ。」