オハラ洋装店
「こんちは~。」
<入れ代わり立ち代わり やって来る お客さんや 一日中 居座る 酔っ払いのために とにかく 作っちゃ 出す>
台所
糸子「あっ! あ~あ… まあ ええわ。」
<失敗しても 出す>
居間
木岡「おっ 来たな。」
木之元「何 これ?」
縫い子「だし巻きです。」
木岡「だし巻き?」
北村「こら 駄目巻きやろ。」
木之元「アハハハハ!」
北村「おかん 助けて! これ もう~。」
千代「あれ まあ!」
木之元「駄目巻き!」
千代「食べれますて。」
北村「食べれるて ここまで香ばしいがな。 ハハハ!」
木之元「食べり。」
北村「子供は好きやど こんなん。」
2階 座敷
聡子「どやろ?」
直子「へえ~!ええやん!」
聡子「ほんま?」
直子「ふん。 あんた なかなか やるな。」
聡子「お客さんからは『ハレンチ』って 言われてしまったんけどな。」
直子「そんなん 言われたもん勝ちや。」
聡子「え?」
直子「うちなんか しょっちゅう言われてんで。 ハレンチやら 悪趣味やら。 ほんで ええねん。 デザイナーが ええ子ちゃんで どないすんねん。」
聡子「はあ…。」
直子「けど この丈 あんた 何で思いついたん?」
聡子「うん。 あんな ロンドンの女の子らがな こんなん よう はいてんやし。」
直子「ロンドン?」
聡子「うん。 ビートルズの記事とか見とったらな ファンの子らとか よう写真 写ってるやんか。 その子ぉらが 必ず この丈 はいたんねんか。 それが ごっつ格好ええねん。」
直子「ふ~ん。」
聡子「けどな『やっぱし そら ロンドンの女の子やから 似合うもんなんやで』って お母ちゃんは 言うちゃあった。」
直子「あかん あかん。 あんた そんな事 気にしちゃったら あかんで。」
聡子「はあ?」
直子「あんなあ あんたが ロンドン風 好きやったら ひたすら ロンドン風 作っちゃあたら ええねん。 ほしたら 勝手に ロンドン風の客が 集まってくるようになるんや。」
聡子「ほうなん?」
直子「お母ちゃんも姉ちゃんも 客に こび 売り過ぎなんや。 あんなん 聞いちゃあった あかんで。」
聡子「ふ~ん…。」
居間
北村「よう!」
直子「何や おっちゃん 来てたん?」
北村「相変わらず お前 ごっつい格好 しやんの~。 東京で 流行っちゃあんのけ?」
直子「東京の流行り ちゃうわ。 うちの流行りや。」
北村「お~お~ おお~!」
木之元「何が『お~』や。」
北村「さすがに もう 山猿 ちゃうのう。 都会の猿や。 言う事が ひねくれちゃあるわ。」
直子「どっちも 猿やなあ。」
木之元「まあ 飲め! お猿。」
北村「もらえ おしゃれ猿。」