糸子「先代はやな 一生懸命 商売してたんが たまたま 戦争で えらい 生地の 在庫を抱えるはめになってしもた。 せやさかい うちも 洋裁屋として 知恵 絞るとこから 手伝わしてもろたんや。 そない洋服が 簡単に売れる時代でもなかった。」
譲「はあ そのとおりです。」
糸子「あんたの話は ちゃうやろ?」
栄之助「はい。」
糸子「プラプラ 買い付けに出かけて ええかげんな契約してきてしもた。 お父ちゃんに怒られるよって どないかしてほしい。 こんなに景気ようて ほっとっても 物が売れる時代にや。」
栄之助「僕が 甘ったれてました。」
糸子「あんたは まず 自分の知恵 絞るちゅう事 覚え。 うちより あんたの頭の中の方が よっぽど 時代に向いた ええ知恵 あんのかも しれへんやないか。 人のん借りて 済ますやら もったいない事しな!」
栄之助「ほんまに おっしゃるとおりなんです。 けど 先生。 僕も 僕なりに 知恵 絞ってきました。」
糸子「何や?」
栄之助「染めてきました。」
糸子「ほんで?」
栄之助「3色になりました。」
糸子「ほんで?」
栄之助「へ?」
糸子「あんた… あんた 知恵 絞ったて ほんなけけ?! 3色にしたら うちが『ほうけ~ 3色け ようやったな』ちゅうとでも 思てんけ?! お前 どんなけ商売なめてんじゃ! 帰れ このアホぼんが! 帰れ 帰れ もう 今日は! 帰れ ほら! 帰れ!」
リビング
孝枝「ひゃ~ 金箔カステラやて! ちょっと 浩ちゃん 浩ちゃん! ちょっと 見てみ これ。 黒いとこが 金やで! キランキランや。」
浩二「ほんまですね。」
孝枝「これぐらいか?」
浩二「もっと大きい 切って下さい。」
孝枝「うわ~ いくらぐらい すんやろなあ これ?」
糸子「いや 先生 また これ 上等なお菓子 頂戴しました!」
浩二「うわっ! 何ですか?」
糸子「今度 来たら ぶつけちゃるんや。」
孝枝「先生 見て下さい。 キランキランのカステラですわ!」
糸子「何で カステラに 金箔 張らな あかんねん。 ぜいたくに のぼせ上がんのも ええかげんにせえ ちゅうんじゃ! ふ~ん… うまい!」
寝室
糸子「里香 金箔カステラ 食べるか?」
糸子「黒いとこが 金やで。 キランキランやで。 ふん 食べ。 うまいか? あんたな 言わな あかんで。 自分が 痛いやら しんどいやら あるんやったら 言わなあかん。 誰かて ほんなん… 自分一人で 我慢なんか でけへんねや。 言うたかて かめへんねん。 な?」