一同「うわ~!」
清子「わあ このアッパッパ ええなあ。」
静子「ほんまや 何や ちょっと ちゃう。」
糸子「そやろう? 三角や。」
清子「三角?」
糸子「ここに 三角 入れたんや。 そしたら こない ふわ~っと なんねん。」
静子「ええなあ うちも こんなん欲しい。」
清子「うちも!」
糸子「よっしゃ 作ったろ!」
清子 静子「わ~い!」
静子「ええなあ。」
清子「わあ かいらしい。」
糸子「ふわ~っ!」
夜中
ハル「あんた また こんな夜中に 何してんや?」
糸子「静子のアッパッパ 縫うてんねん。」
ハル「はよ寝り! そんな事してるさかい 寝坊するんやで。」
糸子「分かってる。 これ 終わったら…。」
ハル「あ か ん!」
糸子「ほんまに あと もう ここまで。」
ハル「あかん ちゅうてるやろ。 はよ寝りて!」
糸子「あ~あ…。」
糸子「ああ…。 そや。 宿題やってへんわ。」
<はよ 大人になりたいです。 はよ 大人になって 毎日 好きなだけ 裁縫できたら どんだけ ええやろう>
小原呉服店
「こんにちは。 お邪魔します。」
ハル「いらっしゃい!」
「こんにちは。 失礼します。」
<小原呉服店 ごっつ繁盛してます! …て 言いたいとこやけど 残念ながら これは お客さんと違います>
2階 座敷
<去年から お父ちゃんが 謡の教室を始めました。 この人らは そのお弟子さんです>
♬『ざらざらざ』
善作「ああ あ~あ まあ よろしいな。 もういっぺん いってみまひょうか。」
「はあ。」
善作「いつも 同じとこやで。」
「はい。」
善作♬『あなたへ ざらりい』
♬『あなたへ』
<お弟子さんからのお月謝が 稼ぎになるんと ついでに 着物も買うてもらえるん ちゃうかちゅう お父ちゃんの算段です>
「いや 今は お金ないし また今度な…。」
善作「酒井さん これ あててみる?」
「いえいえ。 わしんとこ こないだ 作ったばっかりやさかいなあ。」
善作「さよか…。」
小原呉服店
ハル「こない売れんと どないすんのや…。 糸子の学費かて まだ半分 残ってんのに…。 あと娘3人 おるんやで うっとこは…。」
善作「え~ ブツブツ ブツブツ…。 文句が あんやったら はっきり言わんかい!」
ハル「学費や。」
善作「ああ?」
ハル「あんたな 気前よう 娘 女学校 入れたかて 学費 払えなんだら やめささな しゃあないねんで。」
善作「じゃかましい! 分かっとるわい そのくらい!」
ハル「『はっきり言え』言うさかい 言うたんやんか!」
善作「じゃかましい! おい 千代 飯や! 飯 食うど~!」
千代「へ… へえ。 す… すんません。」
玄関前
「糸ちゃん お帰り。」
糸子「ただいま!」
「お帰り。」
糸子「ただいま。 ただいま~!」
子供部屋
糸子「よいしょ。」
(物売りの声)
善作『おい 糸子 帰ったか?』
糸子「うん もう…。」
居間
糸子「何? お父ちゃん。」
善作「集金 集金。 樋之池町や。 ちょっと遠いど。」
糸子「ええ~。 うち 裁縫したいねん。」
善作「口答えすな! どの口が言うとんや! 仕事が先や。 はい。 は~ 忙しい 忙しい!」