北村「アホけ! 生地代 かかりすぎじゃ! 何 笑てんや?」
周防「いや。」
北村「こんなようさん 生地使わな あかんけ! これ 丈短かしたら ええねんて! こんなもん! こんな ひだひだも こんな ぎょうさんいらん! 減らせ! 分かったか?」
糸子「できません。」
北村「ああ?」
糸子「今 スカートは 丈が長うて ギャザーが ようさん入ってんと 売れませんよって。」
北村「そんなもん 売ってみんと 分かれへんやろ!」
糸子「分かります。 絶対 売れません。」
北村「お前な 売りね120円のもん 作ろうかちゅうてんのに 何 生地代に 20円も使てんや。 どんだけ割 悪い商売さそう 思てんじゃ。 嫌がらせけ?」
糸子「北村さん。 お宅 店を流行らせたいんですやろ?」
北村「当たり前じゃ。」
糸子「ほな 人が欲しがるもん 安う売る。 それを徹底的にやらんと あきません。 特に 開店が一番 肝心なんです。 あの店は 値段以上の物を 安 売ってくれる。 そない お客に信用してもらお 思たら 最初は 多少の我慢もせんと あかんのです。」
北村「ああ やかまし! やかまし やかまし! ここの社長は 誰じゃ。 わいじゃ! 己らはな わいの言うとおりに しちゃったら ええんじゃ! 何じゃ!」
糸子「ちょっと 来ぃ!」
北村「ちょっと 来ぃ… いて! 引っ張んな こりゃ!」
糸子「ちょっと!」
北村「社長 社長…。」
糸子「ええもん 見しちゃら!」
北村「社長じゃ!」
小原家
オハラ洋装店
<こいつは とにかく 現場を見んと あきません>
千代「糸子が お世話になってます~! ゆっくりして下さいね~!」
北村「ああ おおきに。」
千代「岸和田は あれですかあ? 初めて見えたんですかあ?」
北村「ああ もう 飽きるほど。」
糸子「お母ちゃん!」
千代「へえ?」
糸子「北村さんはな 今から 婦人服の勉強すんや! 余計な話 せんといちゃって!」
千代「はあ そうか?」
糸子「ほな ここに ベルト つけよか。 ぴしっと締まるように。」
「あかんあかん! ベルトなんかで締めたら 肥えてんのが 余計 目立つし。」
糸子「ほな事ない! ベルトちゅうてもな こんぐらいの… こんぐらい太いの。 ほな ここに 目ぇいくよって ここは目立てへんようになんやし。」
「ふ~ん。」
糸子「な ええやろ?」
「うん。」
昌子「ちょっと! ちょっと のいてもうて ええですか。」
「あんな… こないだ こさえてもうた やつがなあ。」
糸子「何か まずかった?」
「あんまし似合えへん ちゅわれて。」
糸子「ほんま? 何が あかんて?」
「うち こない痩せてるよってなあ。 ここが すかすかで 貧相に見えるって。」
糸子「ああ… そら悪かったなあ! ほなまた持ってきて あれ。」
「え?」
糸子「もっかい考えるわ。 襟かなんか つけたら ええかもしれんしな。」