連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第11話「1942-1943」【第3週】

雉真家

ダイニング

稔「そんなら 勇は もう東京で 生活 始めとるんですか?」

千吉「ああ。 学生寮に入ったよ。」

稔「残念じゃな。 直接 合格祝い言いたかったのに。」

千吉「いずれ 早慶戦を 見に行きゃあよかろうが。」

稔「はい。」

美都里「さあさあ 稔。 たいのお刺身じゃあ。 上がりなさい。」

稔「こねえな よう手に入りましたね。」

美都里「うん。」

千吉「朝から大騒ぎゅうしょったわ。」

稔「ありがとうございます。 頂きます。 会社は 順調ですか?」

千吉「うん。 マニラ シンガポール ラングーン オランダ領東インド。 次々と軍隊が送られて 占領地が広がりょおる。          おかげで 軍服の生産が追いつかんほどじゃ。」

稔「そうですか。 自分と おんなじ年頃の若者が 外地で命ゅう懸けて働きょおる思うたら 申し訳ない気持ちになります。」

美都里「何を言よんでえ。 あんたのような優秀な子は そねん危ねえとけえ 行かんでも ええんじゃ。」

稔「母さん。」

美都里「タミさん。 牛肉は どねんしたん? まだ焼けとらんの?」

千吉「稔。 父さんはな 思い切って 工場を拡張しようと思よんじゃ。」

稔「はあ…。」

千吉「戦争が いつまで続くかは分からん。 しかし この波に乗るなら 今 決断せにゃあいけん。 軍服 国民服に加えて 防寒服 防暑服も必要になるはずじゃ。 そねえなもんを一手に引き受けられる そういう規模の工場を作りてんじゃ。」

稔「あ… 時機を逃さない行動力は 父さんのすばらしいところです。 しかし それには 大変な資金が必要です。 大勢の従業員を抱えて そねえな 危険な賭けに出るなんて… 僕には賛同できません。」

千吉「資金の心配がなかったとしたら どねえなら。 大東亜銀行さんが 無利子 無担保で 用立ててもええ言うてくれとる。 ただし 雉真と大東亜銀行が 末永う 共に繁栄することを 約束できるんじゃったらの話じゃ。 頭取のお嬢さんが せんだって 女学校を卒業した。」

美都里「あなた。 稔は まだ学生の身ですよ。」

千吉「この春休みの間に いっぺん会うてみんか?」

美都里「学業に専念させたれえって あなた いつも 言ようられるじゃありませんか。」

千吉「父さんも いっぺん会うたけど とても ええお嬢さん…。」

稔「お断りします。 申し訳ありませんが 父さん そのお話は… なかったことにしてください。」

千吉「何でなら。」

美都里「ですから 稔は まだ学生…。」

千吉「今すぐ結婚しろと言ようるんじゃねえ。 話さえ まとめときゃあ 先方は おめえが卒業するまで 待ちよってくださる。 何が問題なら。 稔。 ちゃんと話しなさい。」

稔「僕には… 心に決めた人がいます。 じゃから… 父さんの決めた相手と 結婚することはできません。」

美都里「あ… 誰…? あっ 大阪で出会うたん? カフェーの女給に そそのかされたんじゃないじゃろうね?」

稔「たちばなのお嬢さんです。」

千吉「たちばな?」

稔「いつも… 父さんが おはぎゅう注文する… 菓子屋です。」

美都里「はあ… 商店街の小せえ菓子屋じゃが。」

稔「反対されることは分かってました。 じぇけど… 僕には 僕の人生には 必要な人なんです。」

美都里「あんたは だまされとるんよ 稔。」

稔「母さんは… 黙っていてください。」

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