雉真家
座敷
稔「母さん。 安子さんです。」
千吉「いつまで そねえに すねとるんじゃ。 おめえは 安子さんが気に入らんのじゃねえ。 相手が誰であっても 稔をとられとうねえだけじゃ。」
勇「母さん。」
安子「私 自転車に乗れませんでした。 しゃあけど 今は乗れます。 稔さんが教えてくださって 毎日 練習したからです。 時間はかかるかもしれませんけど ええ嫁になれるよう努めます。 じゃから どうか お願いします。」
美都里「嫌よ。」
稔「母さん…。」
美都里「じゃけど 稔が心残りのまま戦地に行ってしまうのは もっと嫌。 私が お嫁入りする時に 雉真の母から頂いたものです。 粗末な身なりで 婚礼の写真に収まられたら 恥じゃからね。」
安子「ありがとうございます。 どうぞ よろしゅうお願いいたします。」
橘家
居間
稔「安子さんと 結婚させてください。 お願いします。」
金太「ふつつかな娘ですが…。 稔君。 安子をよろしゅうお願いします。」
稔「ありがとうございます。」
安子「ありがとうございます。」
稔「おじい様の喪の明けんうちに こねえな用件で伺い 申し訳ありません。」
ひさ「おじいちゃんも きっと 喜びょうる。」
小しず「安子。 えかったなあ。」
安子「うん。」
祝言
<忌中でもあり 祝言は ごく簡素に行われました>
「そんなら ええですか?」
稔「はい。」
安子「はい。」
「ここ 見とってくださいよ。 はい。」
(シャッター音)
(シャッター音)