雉真家
台所
タミ「若奥様 お漬物を。」
安子「あっ はい。 切ってあります。」
美都里「安子さん。」
安子「お義母様 おはようございます。」
美都里「朝げの準備を… 早く…。」
タミ「よう 気の利く 働き者でいらっしゃいますねえ。」
居間
稔「安子。」
安子「はい。」
稔「今日 一緒に出かけよう。」
安子「はい。 お掃除と お洗濯が終わったら 支度します。」
稔「そねえなん ええから。」
美都里「いけません。 婦人会の集まりだってあるんよ。」
千吉「出征まで間がねえんじゃ。 安子さん。 稔と出かけなさい。」
安子「はい。 ありがとうございます。」
喫茶店・出っ歯口の憂鬱
定一「コーヒーいれるんも 久しぶりじゃ。 かけるレコードは ねえし だいぶ前に閉めたんじゃ。 はい。」
稔「ああ ありがとうございます。」
安子「ありがとうございます。 あっ これ…。」
稔「いつもの… 本物のコーヒーですね!」
定一「ちょっと古いけどのお。 輸入が途絶える前の在庫じゃ。」
安子「そねえな貴重なコーヒーを…。」
定一「特別な時だけ いれる。 そねん決めとった。 おめでとう。 わしも うれしい。」
2人「ありがとうございます。」
定一「ハハハハハッ。 ああ 子供は作ってから行けよ。」
(吹き出す2人)
稔「何を…!」
定一「ハッハッハッ。 いや 健一は 独り身のまま行ったからのお。 せめて 孫でもおったら わしもなあ… 気が紛れたのに。」
神社
稔「子供… 授かるとええな。」
安子「はい。」
稔「安子 覚えとるかな? いつか話したこと。 雉真の製品を欧米と取り引きするんが 僕の夢じゃて。」
安子「はい。 覚えとります。」
稔「早う戦争が終わってほしい。 どこの国とも自由に行き来できる。 どこの国の音楽でも自由に聴ける。 自由に演奏できる。 僕らの子供にゃあ… そんな世界を生きてほしい。 ひなたの道を歩いてほしい。」