算太「フフ… いや… 雪衣ちゃんが そんな 金やこ払わんでも…。 まあ 何じゃ… かぞ… 家族? みてえなもんじゃから。」
安子「…にしても 長えじゃろう。 なあ?」
勇「いけるじゃろう。」
安子「ああ 肩幅はぴったりじゃね。」
るい「うん。」
安子「うん 似合うとる。」
勇「似合うとるわ。」
安子「お礼言うた?」
雉真繊維
「新素材 合成繊維 ナイロンでございます。」
勇「ナイロン…。」
「ナイロン?」
「生地が強い。 滑らか。」
林「朝鮮特需のおかげもあって ご覧のとおり 業績は右肩上がりです。 原材料が調達できるようになった上 社員らが一致団結して 販路を広げてくれました。 それもこれも 野球部で培われた チームワークのたまものです。 全く頼もしい。 勇坊ちゃんにゃあ もう… 何の心配もありませんなあ。」
千吉「いや…。」
雉真家
勇の部屋
雪衣「失礼します。 坊ちゃん。 一服されたら どうですか?」
勇「うん? ああ そうじゃな。」
雪衣「お疲れじゃねえですか? 昼間は仕事をしながら 終業後も お休みの日も 野球の練習やら 試合やらで。 夜も こねえして お勉強されて。」
勇「なに どうちゅうことはねえ。 うん? 何なら こりゃあ? ただのお茶じゃねえんか?」
雪衣「梅干しを潰して入れとるんです。 滋養があるそうじゃから。」
勇「ああ そうなんか。 うん。 そねん言われたら 何か みるみる 力が湧いてくるような気がするのう。」
(笑い声)
千吉「勇。 ちょっとええか?」
勇「おう。 何? 話があるんじゃ。」
雪衣「旦那様にも お茶をおいれしましょうか?」
千吉「ああ ええ。」
千吉「勇。 そろそろ嫁ょうもらえ。 おめえは 跡継ぎなんじゃ。 いつまでも 独りでええわけがねえじゃろう。」
勇「ああ…。 どっかのご令嬢と 見合いせえいうことか。 どこの誰じゃ? 父さんのことじゃ もう 相手の目星は つけとるんじゃろう。」
千吉「安子さんじゃ。 安子さんと一緒んなれ。」
勇「ハ… ハハハッ。 何じゃ 何じゃ 何の冗談じゃ 父さんらしゅうもねえ。」
千吉「よう考えてのことじゃ。 今のままじゃあ 安子さんの立場は宙ぶらりんじゃ。 るいの小学校入学を機に はっきりしたった方がええ。」
勇「いや… そねんこと できるわけがなかろうが。 義姉さんは 兄さんの嫁さんじゃ。」
千吉「未亡人になったおなごが 夫の兄弟と再婚するんは そねん珍しい話じゃねえ。」
勇「せえでも…。」
千吉「勇。 おめえにとって 安子さんは ただの幼なじみじゃねえんじゃろう。 とうに分かっとった…。 おめえが 稔と安子さんを 一緒にさせたってくれえと 頼みに来た時からのお。 稔じゃったら 言うじゃろう。 安子さんを任せられるんは 勇しかおらんと。 安子さんにゃあ わしからは 何も言わん。 自分で よう考えて決めえ。」