木暮「部屋でコーヒーて…。」
ベリー「どういうことやの!?」
るい「いや ち… 違います! あの 洗濯物届けに行った時…。」
ベリー「なに 配達のついでに 部屋に上がり込んでんの!」
るい「上がり込むじゃなんて そねえな…。」
ジョー「あれ おいしかったなあ。」
るい「あなたも ちゃんと説明してください。」
ジョー「何を?」
るい「何をって…。」
木暮「部屋のコーヒーて インスタントやろ。」
ジョー「サッチモちゃんいれたら おいしなるんや。」
るい「じゃから…。」
トミー「何や サッチモちゃんて。 君もトランペット吹くんか?」
るい「とんでもねえ。」
木暮「トミー。 今日は出番やないやろ。」
トミー「しつこいファンから逃げてきた。 アイスコーヒー。」
木暮「誰も営業時間 気にしてへんな。 はいよ。」
ベリー「私のレスカは いつ出来るん!」
トミー「どうも トミー北沢です。」
るい「雉真るいです。」
トミー「るい? ああ それでサッチモちゃん。 どうりで ジョーのお気に入りなわけや。 いや ジョーやなくても…。 ルイ・アームストロングが トランペットの神様やったら 君は さしずめ 女神様やな。」
木暮「はい アイスコーヒー お待たせ。 サッチモちゃん。」
ベリー「ちょっと サッチモ。」
木暮「えっ 呼び捨て?」
ベリー「あんたの親 クリーニング屋のくせに 何で 娘に そんなハイカラな名前付けてんの?」
トミー「ええやないか 別に。」
るい「娘じゃありません。 住み込みで働かせてもらようるだけです。」
ベリー「はあ? じゃあ あんた何もんなん? どっから来たん?」
るい「あ… え… どっからって…。」
ジョー「岡山…。 岡山の言葉やんな? それ。」
ベリー「岡山? 何や 田舎もんやない。 で? その岡山の親は何してんの? 場末の音楽教室の先生か何か?」
トミー「偏見で ものを言うな。」
ベリー「そうかて『るい』て。 普通 そんな名前付ける?」
木暮「家族の誰かが サッチモ 好きやったとか。」
回想
安子「お父さんはな るいの名前に 夢ょお託したんじゃ。 アメリカの ルイ・アームストロングいう人から 名前をもろたんじゃ。」
るい「ルイ・アームストロング?」
安子「トランペット吹きょうる…。」
回想終了
るい「関係ありません。 叔父が 野球しょうったから 多分 それでじゃ思います。」
トミー「野球? ああ ベースの塁か。」
ベリー「何や あほらしい。」
ジョー「帰るの?」
るい「はい。 なんぼですか?」
木暮「ああ 今日はええよ。」
るい「いや じゃけど…。」
木暮「暑い中 大荷物抱えて 行き来してもろとるんやから。 コーヒーぐらい。」
ジョー「甘えとき。」
るい「すみません。 ありがとうございます。 ごちそうさまでした。」
木暮「いえいえ。 ほな また。」
(ドアの開閉音)
トミー「う~ん ミステリアス。」
ベリー「どこがやの? ただの田舎もんやない。」
トミー「いや。」
玄関前
るい「結局 お金 使わなんだなあ…。」
ジョー「サッチモちゃん。 クリーニング屋の おばさんのことやけど…。 戦争中やったんちゃうかな サッチモちゃんぐらいの年の頃。 着たい服も着れん 食べたいものも食べられへん。 行きたいとこへも 行かれへんかったんちゃうかな。 そやから…。」
回想
和子「着たい服も 食べたいもんも 行きたいとこもないやなんて ほんな しょうもないこと言うんやないの!」
回想終了