レコード屋
♬~(ジャズ)
ジョー「ほら ここ ここ。 これやろ? えっ? 違うの?」
るい「違います…。」
ジョー「えっ じゃあ 何のレコード買いに来たん?」
るい「レコードを 買いに来たわけじゃありません。」
ジョー「えっ じゃあ 何しに来たん?」
るい「通りかかっただけです。」
ジョー「えっ じゃあ どこ行くん?」
るい「どこって…。(心の声)『またじゃ。 この人とおったら 自分が何ゅうしょんか見失うてしまう…。』昨日 お給料日じゃったんです。 全部 貯金します言うたら 『若え子が 着てえ服も 食べてえもんも 行きてえとこもねえとは』いうて おばさんに怒られてしもうて…。 自分が 何が欲しいんじゃろうかって 考えたけど やっぱり 何も思いつかなんで それで うろうろしょおったんです。」
ジョー「レコードじゃ あかんの? ほら サッチモもあるよ。」
回想
♬~(『On the sunny side of the Street』)
レコード♬『On the sunny side of the Street』
回想終了
るい「せっかくじゃけど…。 レコードプレーヤーもねえし やっぱり貯金します。 おばさんの言うことを無視するみてえで 悪いけど 無理やり買い物したって ただの無駄遣いじゃから。 ほんなら 失礼します。」
ジョー「あっ じゃあ… コーヒー代にしたら?」
ジャズ喫茶・Night and Day
ホール
ベリー「木暮さん レスカ頂戴。」
木暮「ベリーちゃん。 気ぃ付いてると思うけど まだ開店前やからね。」
ベリー「そやさかい 何?」
木暮「何て。」
ベリー「もう短大の友達に チケット売ったらへんで。」
木暮「また そないして脅す。」
ベリー「当たり前や。 持つべきもんは 金払いのええお得意さんやで。」
木暮「考え方が ええとこの短大生やあれへんねん。」
ベリー「ええさかい 早う。」
(ドアが開く音)
木暮「あ~ かなわんな ベリーちゃんには。」
ジョー「ただいま。」
木暮「ああ ジョー。 お帰り。」
ベリー「ジョー!」
ジョー「ああ ベリー。 あっ こっち こっち。」
木暮「あれ クリーニング屋さん。」
るい「あっ こんにちは。」
木暮「今日 集荷やったっけ?」
るい「いえ…。」
ジョー「レコード屋の前で会うてん。 座って。」
るい「あ… ありがとうございます。」
木暮「アイスコーヒーでいい?」
るい「はい。」
ベリー「まだ開店前やで。」
木暮「どの口が言うとるんや。」
ベリー「ふん!」
ジョー「ああ そうそう。 あれから 僕もやってみたけど やっぱり サッチモちゃんみたいに おいしく出来へんわ。」
るい「えっ?」
ジョー「ほら こないだ僕の部屋で コーヒーいれてくれたやん。」