ジャズ喫茶・Night and Day
ホール
(トランペットの音)
錠一郎「荒れてるなあ。 コーヒー頂戴。」
木暮「はいよ。」
トミー「何がや?」
(せきばらい)
トミー「おい ジョー。 荒れてるって何のことや。 音か? 俺のトランペットのことか? そうなんやな おい。」
錠一郎「分かってるなら 聞くなよ。」
木暮「ハハハッ。」
錠一郎「何か あった?」
木暮「渡辺貞夫や。」
錠一郎「ナベサダさん?」
木暮「ついに渡米が決まったらしい。」
錠一郎「前から決まってたやろ?」
トミー「中止になったとか言うてたやないか。」
木暮「いろいろあったけど 保証人の問題も解決したんやそうや。」
錠一郎「それで 何でトミーが荒れるの?」
トミー「決まってるやろ。 先を越されたからや! 秋吉敏子さんに次いでアメリカに行くのは 俺と決めてたのに。」
木暮「お前が勝手に決めとっただけやろ。 ずうずうしいにも程があるで。」
錠一郎「トミー アメリカ行きたいの?」
トミー「お前は行きたくないんか。」
錠一郎「え~… えっ…。 考えたことなかった。」
トミー「お前は…。 お前というやつは。」
木暮「トミー。 サマーフェスティバルの曲 決めたんか?」
トミー「当日決める。」
錠一郎「また?」
トミー「ほかのプレーヤーとのバランス見て 決めんとな。」
木暮「え~ そんなこと言うて 自分だけ目立とうという魂胆やろ。」
トミー「そんな策を弄さんでも 俺は 自然と目立ってしまう。」
木暮「はい そうでした。 ジョーは? 曲 決めた?」
洋服屋
和子「いや~ かいらしいわあ。」
「よう お似合いです。」
和子「よっしゃ 決まりや。 これにしい。 これに。」
るい「ちょっと 派手すぎる気がするんじゃけど…。」
和子「何言うてんの ふえすてばる行くんやろ ふえすてばる。 これぐらい目立たんと。」
「こちらはいかがですか?」
るい「わあ すてき。 控えめで 涼しげで。」
「お客様 お目が高い。 こちらの色は シャーベットカラーいうて 今年のはやりです!」
和子「それ はよ言わんかいな! るいちゃん これ着てみい! これ。 これ これ これ。 ほい ほい ほい!」
竹村家
居間
平助「ほんで そのカーペットカラーのやつに したんかいな。」
和子「シャーベットカラーや。 じゅんたん巻きつけていくんか。」
(笑い声)
るい「おかげさまで ええお買い物ができました。 ありがとうございました。」
和子「何を言うてんの こちらこそやわ。 娘とショッピングいうの いっぺん やってみたかったんや。」
平助「うちは 子供おらんからなあ。」
和子「今日は楽しかった。 ありがとうねえ。」
るい「そんな…。」
平助「まあ 子供が出来とったしても るいちゃんみたいに べっぴんさんには 育たんかったやろうけどな。」
和子「そら そやな。」
(笑い声)
和子「あっ ほな 頂きます。」
平助「頂きます。」
和子「これ おいしいから。 これ これ これ…。 食べてや これ。」
るい「頂きます。」
<本当に そうなら よかったと るいは思いました。 最初から このクリーニング店の娘に 生まれていたら よかったと>
和子「これな コロッケな 1個おまけしてもろたんや。 なっ?」
(笑い声)