稔「急行で 岡山まで追いかけて 事情を聞きました。 砂糖の生産会社の息子さんとの 縁談が進みょうること。 そりょう受け入れると決めて 最後に僕に会いに来たこと。 無礼を承知で言います。 砂糖の会社と手を組んだところで 店の経営は ようはなりません。」
金太「何でじゃ。」
稔「大阪に暮らしょうると 岡山にいるよりも ずっと 戦況を肌で感じます。 今後 菓子そのものが ぜいたく品とされて 製造の規制が かかるかもしれません。」
金太「そねんなこと… にわかに信じれるか。」
稔「すみません。 差し出がましいことを言いました。」
小しず「あの… 安子と おつきあいしてえいうんは 本当なんでしょうか?」
稔「はい。」
小しず「そねんことができるんですか? 雉真繊維のご長男じゃったら それに ふさわしい縁談が きっとあるはずじゃのに。 あなたの一存で 決めれることなんですか?」
稔「僕は 子供の頃からずっと 雉真繊維の跡継ぎとして 生きてきました。 常に父の教えに従い 学問に打ち込み 跡継ぎにふさわしい教養と品格を 身につけようと努めてきました。 いずれ 親の決めた相手と 結婚するじゃろうということにも 何の疑問も持っとりませんでした。 ですが… 安子さんに出会てから 僕の目に映る景色が一変しました。」
稔「安子さんが言ようられました。 甘うて おいしいお菓子を 怖え顔して食べる人はおらん。 怒りょうっても 自然と明るい顔になると。 親の決めた相手じゃのうて…。 安子さんと共におりたい。 安子さんと共に生きたい。 安子さんに そばにおってほしい。 それが うそ偽りのない 僕の気持ちです。」
金太「あんたの気持ちゃあ分かった。 あんたが ええかげんな人間じゃねえのも よう分かった。 じゃけど 安子を たちばなから出すわけにゃあいかん。 もう… うちにゃあ 安子しかおらんのんじゃ。 今日は 安子が面倒をかけました。」
稔「夜分に お邪魔しました。 失礼します。」
道中
安子「稔さん!」
稔「勝手なことをして ごめん。」
安子「稔さん 私…。 私も 稔さんと生きていきたい。 あなたと ひなたの道を歩いていきたい。」
雉真家
庭
稔「ナイスバッティング!」
勇「兄さん。」
稔「いい打撃って言わにゃあ いけんのんかな。」
勇「お帰り! どねんしたんで 急に。」
稔「あ~ ちょっと急用でな。 汽車が のうなったから寄ったんじゃ。」
勇「そうか。 ハハッ。 母さん!」