道中
<こうなったら 中途半端な考えは捨てよう。 バレたら それまで。 とことん なりすましを極めて 本物のスーパー家政婦になればいい>
ミワ宅
さくら「おかえり。」
さくら「ふ~ん… 八海サマに引き止められて 続けることにしたんだ。」
ミワ「はい。 神の啓示には背けませんでした。」
さくら「まあ ここまできて辞めるのは ずるいしね。」
ミワ「…ずるい?」
さくら「だって 罪を犯してる自覚は 最初から あったわけでしょ? なのに いい思いをさんざんして バレる前に逃げたいって それは虫がよすぎるよ。」
ミワ「…そうですね。」
さくら「全てがバレ ろう獄にぶち込まれる そのギリギリまで 己の欲望のままに突っ走っていく。 それが 久保田ミワっていう人なんじゃないの?」
ミワ「そんな 欲望の暴走機関車みたいな…。」
<いや 確かに さくらさんの言うとおりかもしれない>
<この 欲望の暴走機関車が 行き着く果ては…>
ミワ「詐欺罪 住居侵入罪 器物損壊罪…。」
<懲役16年!>
(ノック)
<えっ… 何!?>
(ノック)
「久保田ミワさんですね。 詐欺 不法侵入 器物破損の容疑で 18時46分 通常逮捕します。」
<ウソ… どういうこと?>
「今 捜査員に囲まれて 女が出てきました。 両手には手錠をかけられているのが…。 久保田ミワ容疑者 29歳。 別人になりすまし 大胆にも家政婦として…。」
<こうして 私のなりすまし人生は 突然 終わりを迎えた>
<そして…>
2039年 夏
ミワ「ありがとうございました。」
「二度と なりすますんじゃないぞ。」
<45歳となった私は…>
さくら「バカじゃないの?」
ミワ「えっ?」
さくら「懲役16年なんか あるわけないでしょ。」
ミワ「ですかね…。」
さくら「で これは何?」
ミワ「ああ どうせ続けるなら 一流の家政婦さんに ちょっとでも近づけたらと…。」
さくら「それでフランス語を?」
ミワ「はい。」
さくら「偽物が だんだん 本物になっちゃうみたいな映画あるよね。」
ミワ「『ギャラクシー・クエスト』とか 『ポストマン』とか。」
さくら「でも 語学に家事に一般教養って 短期間では無理じゃない? さすがに。」
ミワ「ですよね…。」
さくら「まあ 頑張って。 私としては 久保田さんを通じて 八海サマの最新情報が 得られたらいいので。 じゃあ 『今週の八海サマ』教えて。」
ミワ「はい。 昨日から海外ロケに出発したんですけど 新しく買った炊飯器を持っていきたいと 八海サマがおっしゃって。」
さくら「えっ 炊飯器?」