ミワ「はい…。」
八海「聞いた話では 母は危篤になる前 私の弟と その娘に 会いたがっていたようなんです。」
ミワ「弟さん…。」
八海「でも弟は 昨年 他界していて その娘は今 海外にいます。」
ミワ「…はあ。」
八海「もし 母が もう一度 目を覚ますことができたら 私は弟になりすまし ミワさんには その娘になりすまして 母の最期に立ち会ってほしいんです。」
ミワ「えっ えっ えっ… ええっ!?」
八海「私は高校を出てから 一度も母に会っておりません。 親不孝な息子でしたから せめて最期ぐらい 望みをかなえてあげようと思いまして。」
ミワ「あの… でも 弟さんが 昨年 亡くなられてるということは お母様はご存じ… なんですよね?」
八海「う~ん… 今はもう その辺りの記憶が 曖昧なようです。 会いたがっているということは 恐らく まだ生きていると思ってる。」
ミワ「八海さんは 八海さんご自身として お会いにならなくていいんですか?」
八海「ええ。 もう私のことは忘れてるでしょうから 母が会いたい人を演じてあげたいんです。」
ミワ「あの でも私 その娘さんのこと 全然知らないんですけど…。」
八海「私の話に合わせてもらえたら大丈夫です。 お願いできませんか。」
ミワ「はい…。」
八海「うん。」
ミワ「あっ でも そんな私 演じきる自信が…。」
八海「じゃあ ちょっと練習しましょうか。」
ミワ「えっ?」
<れ… 練習!? 八海サマじきじきの 演技レッスンですか!?>
八海「あっ そうだ。」
ミワ「はい。」
八海「あの 写真を参考に衣装も用意しました。」
ミワ「い… 衣装!? えっ…。」
看護師「横山さん! お母様 目を覚まされました。」
八海「分かりました。 すぐに行きます。」
<ええっ!? 全然 練習できてないのに…。>
八海「準備しましょう。」
ミワ「あっ はい。 えっ あっ ちょ…。 ちょっと待って下さい…。」
ミワ「お… お待たせしました。」
八海「行きましょう。」
ミワ「はい。」
病室
八海「どう? 洋だよ。 今日は心配して 愛莉も帰ってきてくれた。」
久恵「どうしたの。」
八海「どうしたのって… 心配して来たんじゃないか。」
久恵「忙しいんじゃないの?」
八海「まあ 大きな裁判が終わって 今は休みを取ってる。」
久恵「そう…。」
<いや 絶対バレるって…>
久恵「それは どんな裁判だったの?」
八海「えっ…?」
ミワ「え… えっと 私 傍聴席で見てたけど 確か 詐欺事件… だったよね?」
八海「ああ そう… まあ 普通なら 有罪になってもおかしくない 事件だったんだけど 土壇場で無罪を勝ち取ったんだよ。」
ミワ「あれは しびれたなあ…。」
八海「うん…。」
久恵「いつもみたいに ちょっと やってみせてくれないか。」
八海「えっ…。」
<お母様 それは あまりにもむちゃぶり…>