(荒い息遣い)
八海「今日は 君のために貸し切りにした。」
越乃「何でイチゴ?」
八海「イチゴはシャンパンが引き立つ。」
越乃「また忘れるといけないから 今のうちに言っておくわ。 今日は最高の一日だった。」
<八海サマと越乃サマ。 二人が紡ぎ出す空間は とても 私が今 生きている世界と 同じものとは思えなかった>
監督「カット! OK! いや~ お二人が同じフレームにおさまってる。 久しぶりに震えました。」
八海「ありがとうございます。」
ミワ「すみません 遅くなりました。」
藤浦「お疲れさま。」
八海「どうですか 撮影現場は。」
ミワ「はい 新鮮でとても楽しいです。」
藤浦「ミワさん これは何?」
ミワ「あっ 入浴剤です。」
藤浦「こんなもの お願いした覚えはないけど。」
八海「どうしてこれを?」
ミワ「以前 雑誌のインタビューで 極楽浄湯がお好きだと おっしゃっていられたので…。」
八海「雑誌って 『キネマウィーク』ですか。」
ミワ「はい そうです。」
八海「確かに そう答えたかもしれません。 最近 都内では なかなか見かけなくなって 諦めてたんですよ。 そうか こんなところにあったのか。」
スタッフ「間のなく再会しま~す。」
八海「はい。 それじゃ。」
ミワ「はい。」
藤浦「ミワさん。」
ミワ「はい。」
藤浦「どうして3年前に発売された雑誌のことを そんなに詳しく知っているの?」
ミワ「えっ…。」
藤浦「あなたの経歴によれば その期間 イギリスに留学してたはずよね?」
<また調子に乗ってしまった かもしれない>
ミワ「あの… 日本の友人に送ってもらって…。」
藤浦「八海 崇のファンだったってこと?」
<ああ もはや これまでか…>
藤浦「最初に ファンはNGだって言ったはずだけど」
<なりすましがバレる前に 八海 崇のファンってことが バレるなんて…>
(着信)
藤浦「はい 藤浦です。」
<私は今まで 八海 崇のファンであることを 誇りに思って生きてきた。 もう二度と ファンじゃないなんて ウソをつきたくない>
ミワ「あの 私は…。」
藤浦「これは警告です。 これ以上 出過ぎたまねをしないように。 いいですね?」
「藤浦さん ちょっと こちらにお願いします。」
藤浦「はい。」
越乃「人は いつだって おとぎ話が欲しいものなのよ。 このジュエリー 今日のドレスには似合わないわ。 私は 恋に溺れるほど若くはない。 ただ あなたが好きなだけ。」
監督「カット! OK!」
越乃「はっちゃん。」
八海「ん?」
越乃「いい匂いがするね~。」
八海「え?」