連続テレビ小説「なつぞら」第107話「なつよ、どうするプロポーズ」【第18週】

喫茶店・リボン

(ドアの開閉音)

店員「いらっしゃいませ。」

坂場「アイスコーヒーで。」

店員「かしこまりました。」

なつ「お疲れさま。」

坂場「うん。」

なつ「すぐ出てもいいけど コーヒーやめる?」

坂場「いや ちょっと話が…。」

なつ「うん。 分かった。」

店員「失礼します。」

坂場「映画が すごく不入りみたいだ。」

なつ「うん… みたいだね。」

坂場「でも 悪い映画じゃないと思ってる。 いい映画を作ったと 僕は思ってるんだ。 今でも。」

なつ「私も 本当に気に入ってるから。 うん… 今まで作った中で一番よ。 私 思うんだけど 大人の人にも見てもらえるように 宣伝してくれたらいいのに…。 そう思わない?」

坂場「僕には もう作れないんだ。」

なつ「どうして? 今度は あれよりも もっと すごいものを作ればいいじゃない。 私は 絶対に作りたいけどな また。」

坂場「会社を辞めてきた。 君を含め スタッフには これから 待遇の面で 迷惑をかけることになる。 その責任を取らなくてはならない。 たとえ 会社に残ったとしても もう演出はできないだろう。」

なつ「ねえ もっとよく考えたら? 仲さんや露木さんには相談したの?」

坂場「僕は終わった。 もう終わったんだ。」

店員「お待たせしました。」

なつ「そう…。」

坂場「だから 結婚はできない。 僕のことは忘れてくれないか。」

なつ「どうして? 仕事と結婚は別でしょ?」

坂場「僕は嫌なんだ…。」

なつ「嫌?」

坂場「君の才能を 誰よりも生かせる演出家になりたかった。 今の僕は その資格を失ったんだ。 結局 君を幸せにする才能なんて 僕にはなかったということだ。」

なつ「そっか… そういうことか…。」

坂場「そういうことです… 本当に申し訳ない。」

なつ「おかしいと思った。」

坂場「えっ?」

なつ「考えてみれば 一度だって あなたに 好きだと言われたことはなかったもんね。 私の方は いつ イッキュウさんのこと 好きになったんだろうって考えてたのね。」

なつ「一緒に 短編映画作った時か… 一生かけて 一緒に作りたいって 言ってくれた時か…。 まあ その前に アニメーションにしか できない表現とは何かって話をしてて イッキュウさんの言ったことに しびれたこととか…。」

回想

坂場「ありえないことも 本当のように描くことです。 違う言い方をするならば ありえないことのように見せて 本当を描くことです。 そう思います。」

回想終了

なつ「あれには 本当に参った…。 それ以来 私は その言葉に恋をしたんです。 ありえないことも 本当のように描くこと…。 私の人生には 本当に そんなことばかり起きてるから…。 戦争で孤児になって 親を失って 両親とも離れて きょうだいとも離れたけど… ありえないような すてきな家族に恵まれて ありえないような自然の中で 幸せに育って…。」

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