中庭
桃代「でも 安定はしてないんでしょ?」
なつ「うん… 仕事が ずっとあるわけじゃないから。 今のところは 家事は ほとんど やってくれてるけど 子どものことまでってなると…。 だから 今は 子どものことは考えられません。」
桃代「欲しくないの?」
なつ「いや そりゃ 欲しいけど… 今は ぜいたくよ 子どものことを考えるのは。」
茜「いや ぜいたくという考えは おかしいわよ。 子どもを産んで育てることは 自然なことでしょ。」
桃代「じゃ やっぱり 女が働くことの方が不自然なの?」
なつ「それも おかしいでしょ。」
茜「でも 実際には そうなってるわよね 子どもができた途端に。」
なつ「それじゃ 茜さんは やっぱり辞めちゃうんですか?」
茜「経済的なことを考えれば 辞めたくはないけど 子どもは 一人じゃ育たないしね。 一応 赤ちゃんから預けられる 保育園っていうのを探してるんだけど あったとしても そこも入れるかどうか… 数が少ないから。」
なつ「そうですか…。 子どものために テレビ漫画を作ってるのに 自分の子どもが生まれたら作れないなんて 納得いかないですよね。」
<なつたちの結婚生活は まだ先の見えない 開拓の途上になるようでした。>
風車プロダクション
<そして まだ独身でいる この人の将来も…。>
咲太郎「また 声を聞いてみて下さいよ。 連れてきますから。 はい お願いします。 それじゃ また よろしく どうぞ!」
咲太郎「あ… いやいやいや すみません テレビ漫画の放送が増えましてね 声の仕事も そっちが どんどん増えてきまして 声優は もう引っ張りだこなんですよ。」
野上「いや 成功してるんですね。 ご立派なことです。」
咲太郎「あ~ いやいや まだ貧乏暇なしです。 あ… それで 何でしたっけ? 野上さんのご用件は。」
野上「いや そう大した話じゃないんです。 風車は どうされるのかなと思って。」
咲太郎「風車が何か?」
野上「立ち退きの話 聞いてないんですか?」
咲太郎「立ち退き!? あの店がですか?」
野上「あのあたり一帯が取り壊されて デパートのビルが建つことになったと 聞いておりますが。」
咲太郎「本当ですか? 風車は もう 営業できないということですか?」
野上「そういう話 聞いてないんですか?」
咲太郎「はい… 最近は忙しくて ほとんど 風車には 帰っていなかったもので…。」
野上「実は 我が川村屋も 今度 ビルに建て替えることになったんです。 今の店舗を取り壊して 近代化を図ることになったんです。 聞いてます?」
咲太郎「えっ? あ はい… ビルになるんでしょ。」
野上「その話は やはり聞いてらしたんですね。」
咲太郎「えっ?」
野上「それで あなた どう動くおつもりですか?」
咲太郎「動く?」
野上「いつまで待たせるおつもりかって 聞いてるんですよ。」
咲太郎「待たせる?」
野上「とぼけても無駄ですよ。 あなた方が陰で… そういった その… ご関係であるってことは 察しがついてるんです。 いつまで そうやって陰で コソコソ コソコソしてるつもりなんですか!」
野上「それとも 何ですか? このまま一生 けじめを おつけにならない おつもりですか!? それでは あまりにもあの人がふびんです。 もう若くないんですから!」
咲太郎「野上さん… 野上さん ちょっと落ち着いて下さい。」
野上「この風車が無くなるという機会に 是非 一度 ご自身の身の振り方を お考えになってはいかがでしょうか?」
咲太郎「あっ それ まだ…。」
野上「あちちち…!」
咲太郎「あっつ あっつ…!」