おでん屋・風車
1階店舗
亜矢美「♬『真夏の海は 恋の季節なの』 あら 茂木社長 早いね いらっしゃい。」
茂木「いやいや もう こんなに暑くちゃさ いつまでも社長室なんかに 籠もってられませんよ。」
亜矢美「ハハ それで 熱々のおでん 食べに来て下さるんだから ありがとう ありがたい。」
茂木「ママの顔見たら 少しは 涼しくなるんじゃないかと思ってね。」
亜矢美「私は お岩さんか。」
茂木「お岩さんよりも寂しいんでしょ 最近のママは。」
亜矢美「えっ?」
茂木「なっちゃんもいなくなって ここには もう たまの里帰りぐらいしか来ないでしょう。」
亜矢美「寂しくなんかありませんよ ちっとも。 子どもを立派に育て上げた お母ちゃんの気分を味わってますよ。」
茂木「へえ~。 はあ~… なっちゃんのいない この店のビールは 心なしか 気の抜けた味がするね。」
亜矢美「じゃ 試してみます? お~! ハハハハ…。」
茂木「おいおい…。」
坂場家
台所
(戸が開く音)
坂場「あ…。」
なつ「ただいま。」
坂場「お帰り。」
なつ「あ~ いい匂い!」
坂場「ちょうど完成したところだよ。 今日は 2時間でできた。」
なつ「2時間も?」
坂場「うん。」
なつ「あっ 牛乳使ったんだ?」
坂場「君のお母さんのノートにあった料理を 作ってみたんだけど。」
なつ「へえ~。」
リビング
坂場「はい。」
なつ「あ~ 懐かしい…。 頂きます。」
坂場「うん。 どう?」
なつ「おいしい。」
坂場「子どもの時に食べた味と同じ?」
なつ「うん 近いかも… でも 牛乳が違うからしょうがないでしょ。 これでも 十分おいしい。」
坂場「そうか… 牛乳だけじゃないかもしれないな これ。 う~ん…。 いや 大体 君のお母さんのノートには 塩は少なめとか しょうゆは多めとか やや少なめとか やや多めとか 曖昧な表現が多すぎるんだよ。 これじゃ どうやって計量していいのか 分からないよ。」
なつ「しょうがないでしょ 農家で忙しい中 作ってきたんだから。 いちいち計量なんてしてらんないわ。 明日は 私がやる。」
坂場「頂きます。」
おでん屋・風車
1階店舗
茂木「で どうすんの?」
亜矢美「ねえ 社長 どっか いい物件知りませんか?」
茂木「えっ 僕が探していいの?」
亜矢美「探して頂けるなら助かるわ。 あっ でも あんまり高い所ダメだからね。」
茂木「でもさ 咲太郎君に頼んだらどうだい? 最近は もうかってんでしょ?」
亜矢美「咲太郎には甘えたくないわ。」
茂木「どうして? 親孝行してもらいなよ これからは。」
亜矢美「親じゃないもん。 あの子の負担にはなりたくないの。」
茂木「負担だなんて思わないって。」
亜矢美「大人になったんだから 私たちは 対等でいたいのよ。」
茂木「咲坊は幸せだな そこまで愛されて…。」
亜矢美「ハッ… なっちゃんが幸せになったでしょ。 だから これで やっと 次は 咲太郎の番だからね。 ♬『まっ赤に燃えた』 もう一回いきやすか…。」
茂木「振るなよ 振るなよ 振るなよ ハハハ…。」
亜矢美「あ~っと…!」
茂木「いや 振るなよ…。」