柴田家
台所
夕見子「おなかすいた~。 明美ちゃん ごはん まだ?」
明美「『まだ?』じゃないよ。 手伝ってよ。 この家で 暇な女は 夕見姉ちゃんしかいないんだから。」
夕見子「あんたがいるじゃない。」
明美「私は女じゃない 女の子だ!」
夕見子「あんたには まだ分かんないと思うけど 体を使うことだけが労働じゃないのよ。 私も こう見えて暇じゃないの。」
明美「こっちは そんなことを 聞いてる暇がないんだよ。」
夕見子「そうやってね ものを考えずに バカになってくのが 一番怖いんだよ 女にとって。」
明美「いいから手伝え! 女らしくしろ 夕見!」
なつ「何 騒いでんの? あっ 明美ちゃん ごめん すぐ手伝うから。」
明美「なつ姉ちゃん このバカに 何か言ってやってよ。 自分は 何もしないで 人を バカにするんだもん。」
なつ「はい 分かった 分かった。 夕見子を当てにした明美も悪いよ。」
夕見子「は~い 分かった 分かった。 おとなしくしてますよ。」
なつ「夕見 何もしないなら 人の心を ひっかき回すな!」
(戸が開く音)
剛男「ただいま!」
なつ「父さん帰ってきた。」
明美「お帰んなさい。」
剛男「ただいま。」
なつ「お帰りなさい。 すぐ ごはん支度するね。」
剛男「なつ おじいちゃんは まだ牛舎か?」
なつ「そうだけど 何があったの?」
剛男「えっ?」
富士子「お帰んなさい。」
剛男「ただいま。 お義父さん…。」
居間
なつ「おいしい! 今日のごはん よく炊けてるね 母さん。」
富士子「うん 本当ね。」
夕見子「でしょ。」
明美「『でしょ』って おかしいでしょ。 どうして 何もしてない夕見姉ちゃんが 『でしょ』って言うのさ。」
夕見子「あんたが そうやって怒ると思ったからよ。 ヘヘ…。」
明美「くぅ~…。」
なつ「やめなよ 夕見。 人の心を ひっかき回さない。」
富士子「明美が偉いのは 母さん ちゃんと分かってるわよ。 いっつも感謝してる。 本当に 料理が上手になったわね。」
剛男「そういえば なつ お前 天陽君ところで 牛を見たんだって?」
なつ「えっ?」
<電気も通って 明るくなった柴田家に その夜は 暗雲が立ち込めそうな気配です。 なつよ ご用心あれ。>