居間
富士子「じいちゃんはね 一人で 北海道に渡って 一人で 荒れ地を耕して 苦労して苦労して 10年も一人でいて そんでもって 農家の一人の娘にほれて その家に通い詰めては 畑を手伝って やっと 結婚の許しをもらえて…。」
富士子「その人を お金がなくて亡くした時には 本当に悔しかったと思う。 さてと。 じいちゃんに お茶でも持ってってあげようかな。」
十勝農業高校
演劇部
なつ「先生。 先生は どんな演劇を作りたいんですか?」
倉田「う~ん…。 それは これから アイデアを絞りださなくちゃなんない。」
なつ「じいちゃんを 励ませられるような演劇ですか?」
倉田「えっ?」
なつ「じいちゃんが見て 面白いと思えるような 感動できるような… 絶対に 傷つけないような演劇ですか?」
倉田「そりゃ 当たり前だ。 そういう芝居を作らなくちゃ 意味がないんだ。」
なつ「私は じいちゃんに 間違ってるとは言えません。 言いたくありません。 だから じいちゃんの気持ちに 少しでも寄り添えるようなことを したいんです。 見つけたいんです。」
倉田「演劇とは 生活者が 楽しみながら 自分の生活を見つめ直す機会を 得られるものであると 私は考えている。」
倉田「地べたと格闘し そのことだけんに苦しみがちな農民にこそ 演劇は必要なんだ。 まあ そう思って 私は 演劇部の顧問になった。」
なつ「こんな私にも 何か お手伝いできることはあるんでしょうか?」
倉田「ある。 お前にしかできないことが ある。」
なつ「それは 何ですか?」
倉田「女優になれ。」
なつ「え… えっ?」
倉田「女優として 舞台に立て。 それが 一番 おじいさんのためになることだ。」
なつ「どうしてですか?」
倉田「だって お前が出ていなくて どうやって おじいさんは 芝居を楽しめるんだ? え? お前が出ていなくても おじいさんは 芝居を 見に来てくれるのか?」
なつ「それは…。」