光子「お久しぶりね。」
咲太郎「マダム 俺の借金と妹は 何の関係もないだろ!」
光子「どういう意味かしら?」
なつ「お兄ちゃん…。」
光子「妹を働かせるなんて 川村屋のマダムも 随分あこぎなまね するもんですね。」
光子「はあ?」
咲太郎「これを!」
光子「何?」
咲太郎「返済金です。 また1万円だけですけど…。 これからは 必ず 毎月返しに来ますよ。 そのかわり 妹は解放してもらいます。」
なつ「ねえ ちょっと待って。」
光子「妹が ここにいると知って 慌てて返しに来たわけ? 相変わらずね。」
咲太郎「妹は連れていきます。」
光子「どうぞ。」
なつ「えっ ちょっ… お兄ちゃん!」
雪次郎「なっちゃん お兄ちゃんって…。」
咲太郎「誰だ? こいつは。」
なつ「あっ 雪次郎君。 北海道から一緒に来た 私の友達。」
咲太郎「北海道?」
雪次郎「小畑雪次郎です! なっちゃんのお兄さんですか?」
咲太郎「何だ? お前。」
雪次郎「えっ?」
咲太郎「何で なつを追っかけてきたんだ!?」
雪次郎「いや 追いかけてきたわけでは…。」
なつ「お兄ちゃん やめてよ! 何を さっきから勘違いしてんのさ!」
咲太郎「なつ とにかく ここを出よう! お兄ちゃんと 一緒に行こう。」
なつ「えっ?」
咲太郎「いいですね? マダム。」
光子「だから お好きにどうぞ。 別に なつさんを ここに 縛りつけてるわけではありませんからね。」
野上「それどころか 保護してるようなものですよ。」
咲太郎「行こう なつ!」
光子「連れてって 今度は あなたが 妹を不幸にするの? あなたは 今のなつさんの何を知ってるの? 何をしてあげられるというの? あなたは 今 何をしてるのですか?」
咲太郎「新劇の劇団の制作部にいます。」
光子「それで なつさんを幸せにできるの? なつさんの生活の保証できるの?」
野上「マダムに 借金も返しながら。」
咲太郎「だけど…。」
光子「これから この先 どうやって 妹と生きてゆくつもりなんですか?」
なつ「いいんです! マダムは 兄の何を知ってるんですか! すいません…。」
雪次郎「なっちゃん…。」
光子「そうね… 私は 何も知らないわね。」
野上「なんてことを…。」
なつ「すいません あの… 少しだけ 兄と話をさせて下さい。」
光子「お好きに どうぞ。」
野上「戻ってこなくていいですよ。」
なつ「すいません…。」
咲太郎「行こう なつ。」
なつ「お兄ちゃん ちょっと待って! どこ行くの?」
咲太郎「俺の家だ… もう心配ないよ。」
なつ「何がさ? 何なのよ もう! やっと会えたのに…。 何なの? マダムに あんなこと言って…。 何て言うか… 話に ついてけないべさ!」
咲太郎「お前… すっかり 北海道に染まったな。」