雪月
妙子「ああ いらっしゃい。 富士子さん 泰樹さんも…。」
富士子「雪之助さんに お礼が言いたくて。」
とよ「あ~ら! やっと 顔を見せに来てくれたのかい?」
泰樹「あんたの顔を 見に来たわけでねえよ。」
とよ「ま~た すぐ てれんだから。」
泰樹「誰が てれてんだ。 はんかくせえ。」
とよ「そんなに なっちゃん いなくなって 寂しいのかい?」
泰樹「誰が そんなこと言ったんだ!」
妙子「なっちゃんも 夕見子ちゃんも いっぺんに いなくなって そりゃ寂しいもね。」
雪之助「ああ いらっしゃい。」
富士子「雪之助さん。 なつが お世話になって 本当に ありがとうございました。」
雪之助「あ~ なんも なんも なんも。」
泰樹「これは 礼だ。」
雪之助「ありがとうございます。 あっ そうだ。 泰樹さんに 是非 召し上がってもらいたいものが あるんです。」
雪之助「お待たせしました。」
富士子「きれい!」
雪之助「クリームソーダです。」
泰樹「これか?」
雪之助「はい。 東京の銀座じゃ パフェより まだ これが はやってました。」
富士子「アイスクリームも いろいろと新しくなっていくのね。 なつや 夕見子と おんなじように。」
妙子「雪次郎も 東京で 雪次郎ソーダになってくのかね。」
富士子「そだね。」
とよ「どうにか なっちゃったのかい この母ちゃんらは。」
富士子「とにかく なつは お兄さんに会えて 本当に いかったわ。」
雪之助「はい。 なかなか いいお兄さんぶりでしたよ。」
妙子「だけど 初めは なっちゃんが 北海道を追い出されたんじゃないかって 勘違いしたらしいわ。」
富士子「そなの?」
妙子「ひどい話しょ。」
雪之助「だから 私 言ってやったんですよ。 たとえ 誤解でも それは 柴田家に失礼だべって。」
とよ「いいこと言った!」
富士子「そう思われても しかたないっしょ。 なんもしてやれんで 娘を一人で東京に出したんだから。」
雪之助「いや~ 広い。 柴田家の心は 牧場より広い。」
泰樹「これ うまいな。 もう一杯 お代わりくれるか?」
雪之助「はいはい はいはい。」
とよ「どこが広いの。 クリームソーダのことしか 考えてないべさ。」
(笑い声)
川村屋
厨房
光子「なつさん。」
なつ「はい。」
ホール
なつ「信さん!」
野上「(せきばらい)」
なつ「すいません…。 信さん…。」
信哉「やあ なっちゃん。 やっと会えたね。」
なつ「久しぶり。」
信哉「手紙もらったのに なかなか来られなくて ごめんね。」
なつ「いいの。 信さんも就職したばっかしょ。」
信哉「うん。」
野上「座ればいいでしょ。 座って話をしなさい。」
なつ「すいません。」
信哉「すみません 野上さん。」
なつ「そんで どんな仕事なの?」
信哉「うん 本当は 新聞記者になりたかったんだけど 全部 落ちちゃって。 それでも 運よく 放送局には受かったんだ。」
なつ「放送局?」
信哉「放送記者になるんだよ。 ラジオとか これから テレビジョンの時代になるからそこで流すニュースを取る仕事なんだ。 これは もしかしたら 新聞記者よりも 大きな可能性があるかもしれない。」
なつ「すごいな… 開拓者なんだね 信さんも。」
信哉「え? まあ これからだよ。」
なつ「あ… 信さん 今日 時間ある?」
信哉「ああ… あるよ。 どうして?」
なつ「うん… あの ここが終わったら 一緒に行ってほしいんだけど。」
信哉「どこに?」