蘭子『許仙様 白娘様が あなたをお待ちかねよ』。
遊声『ぱいにゃんさま?』。
蘭子『ええ。 私のご主人様 あの城のお姫様ですわ』。
遊声『お姫様が なぜ僕なんかに?』。
蘭子『そんなこと お会いになれば きっと分かりますわよ』。
蘭子『許仙様 あなたに 私の胡弓を弾いてほしいのです』。
遊声『こんな立派な胡弓を僕に?』。
蘭子『ええ』。
遊声『なんて美しい音色なんだ。 まるで白娘様のように…。 こんなきれいな音は 聴いたことがない』。
蘭子『それは あなたをお慕いする 私の心そのものだからよ』。
遊声『白娘様… ああ これは夢じゃないのか?』。
蘭子『夢じゃありませんわ 現実よ』。
蘭子「咲ちゃん これも劇団のため 活動資金を稼ぐためよね。」
咲太郎「はい そうです。 けど いいですよ。 面白いです。」
蘭子「豊富先生は さすがにお上手ね。 元弁士だけあって。」
咲太郎「上手ですが 森繁久彌なら もっと うまい気がします。」
蘭子「フッ… まあ。」
仲「失礼します。」
なつ「お兄ちゃん。」
咲太郎「なつ! 仲さんも。」
仲「お久しぶり。」
なつ「仲さんにお願いして 見学に来ちゃった。 こんにちは。」
蘭子「こんにちは。」
仲「こんにちは。」
咲太郎「妹のなつです。」
蘭子「知ってるわよ。」
咲太郎「なつは 偶然 この会社に勤めてるんですよ。」
蘭子「ああ あなたが描いてる絵って これだったの?」
なつ「はい… 色を塗ってるだけですけど。」
仕上課
(ドアが開く音)
麻子「あっ トミさん。」
富子「あっ マコちゃん まだ仕事?」
麻子「ちょっと聞きたいんですけど… 奥原なつって優秀ですか?」
富子「優秀? …とは言えないわね。 入って1年もたってないし 彩色の仕事は丁寧なんだけど とにかく遅いのよ。」
麻子「遅い? 動画だと とにかく早いって話だったけど…。」
富子「えっ? 何かあるの?」
麻子「あの子 ただの素人なのか それとも天才なのか…。 どっちなんでしょう?」
富子「何かあるの?」
麻子「どっちだと思います?」
録音スタジオ
蘭子『キャッ!』。
遊声『離れろ 許仙! その女は 白蛇の化け物じゃ!』。
蘭子『何をおっしゃいます!』。
遊声『やめろ 法海!』。 『えい! 正体を現せ 白蛇め!』。
蘭子『許仙様 私を信じて下さい…』。