連続テレビ小説「なつぞら」第6話「なつよ、ここが十勝だ」【第1週】

柴田家

居間

剛男「10銭? 10銭を貸してくれってか?」

富士子「そう 郵便代よ。 東京にいるお兄さんに出したいからって。」

剛男「そんなこと 遠慮してたのか。」

富士子「そなのよ。」

悠吉「泣けるねえ。 鬼のような他人の家で暮らす 戦災孤児の話は た~くさん聞くもな。 あっ いや…。 この家が そうだと 言ってるんではなく…。」

菊介「余計なこと しゃべんな。」

悠吉「ごめん…。」

富士子「だから 私 手紙なんか どんどん書けって 怒っちゃったのよ。 そしたら あの子 泣きだしちゃって…。」

剛男「やっぱり寂しいのか なっちゃんは。」

小学校

なつ「また 馬? 今日ね 子牛が生まれたの。 馬しか描かないの?」

天陽「悪いか?」

なつ「悪くないけど ほかの絵も見てみたいから。」

天陽「どうして 絵が見たいの?」

なつ「私のお父さんも 絵がうまかったの。 お父さんの新しい絵は もう見られないから。」

天陽「ふ~ん。」

(風の音)

天陽「おっ。」

なつ「あっ! ちょっと貸して。」

天陽「えっ? 何?」

なつ「うわ~ 面白い! ねえ これ見て! まるで 馬が暴れてるみたい。 ねっ ほら!」

(いななき)

柴田家

玄関

なつ「あっ こんにちは。」

正治「やあ。 手紙書いた?」

なつ「はい。 これで お願いします。」

正治「はい。 確かに お預かりしました。」

なつ「あの…。」

正治「うん?」

なつ「返事があったら すぐに届けてもらえますか?」

正治「もちろん すぐに届けるよ。 待っててね。」

なつ「はい。」

台所

夕見子「手紙 出したの?」

なつ「うん。」

夕見子「どこに出したの?」

なつ「東京のお兄ちゃんのところ。」

夕見子「ふ~ん。 ねえ はっきり聞くけど あんたは この家にいたいと 本当に思ってる? それとも しかたなく?」

なつ「えっ?」

夕見子「私は 別に どっちだっていいのよ。 ただ 聞いておきたいだけ。 はっきり知っときたいのよ あんたの気持ちを。 だって そうじゃなきゃ あんたを どう受け入れていいか 分かんないんだもん。 どっち? そこが分かんないと どう優しくしていいか 分かんないよ。」

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