なつ「お兄ちゃん 言い過ぎだってば!」
雪之助「君はどうなんだ? うん? 夢だから幻だか知らんけど 借金作って 警察の世話になって なっちゃんに迷惑かけてばっかだべ。」
なつ「いや おじさん 今は そったらこないから…。」
妙子「あんた ちょっと言い過ぎだわ。」
咲太郎「俺と雪次郎は違いますよ。 親のくせに そんなことも分からないんですか! 雪次郎のことを 信じてやればいいじゃないですか。」
雪之助「信じてるから こうやって飛んできたんだべ。 もう これ以上 あいつの人生 狂わさんでくれ。 頼む。」
なつ「おじさん… 雪次郎君は 全部 一人で決めたんです。 どこにいるか お兄ちゃんも知りません。」
咲太郎「(小声で)それは知ってる。」
なつ「あ… それは知ってるそうです。 えっ!?」
咲太郎「雪次郎に相談されて 俺が出ろって言ったんだ。」
4人「はあ!」
亜矢美「咲太郎 やっぱりお前か!」
咲太郎「今 親に会ってしまったら 絶対に 決意が揺らぐって…。 あいつは やっぱり諦めるしかないって言うから だったら 先に川村屋を出てしまえ って言ったんだ。」
なつ「お兄ちゃん!」
咲太郎「部屋は 俺が用意した。」
雪之助「どこだ? そこ。」
咲太郎「実は あいつ 劇団の研究生に受かったんですよ!」
とよ 妙子「えっ?」
咲太郎「俺は 裏方で潜り込んだだけですけど 雪次郎は 正々堂々と試験を受けて 役者としての素質を 認められたってことです。 その倍率は10倍です。 10人に一人の狭き門を突破したんです。」
妙子「本当かい?」
雪之助「喜んでる場合じゃないべ。」
とよ「そんなにいるんかい 役者になりたいなんて若者が 東京には。」
咲太郎「そうです。 どうか 祝ってやって下さい!」
亜矢美「バカ! 言うタイミングが違うんだよ!」
咲太郎「えっ?」
なつ「その前に どこにいるの? 雪次郎君 どこに隠したの!? ちょ… どこ!」
妙子「ねえ 教えて!」
とよ「しゃべれ!」
咲太郎「レミ子と同じアパートだ。 たまたま 隣の部屋が空いてたから。」
妙子「じゃ… すぐ行きましょう。」
雪之助「いや… その前に 川村屋に挨拶するのが筋だべ。」
とよ「うんだ うんだ…。」
川村屋
応接室
雪之助「この度は まことに 申し訳ございませんでした!」
光子「そんなことは やめて下さい 小畑さん!」
野上「されると思いました。」
とよ「本当に 息子と孫が 2代にわたって お世話になっておきながら とんだご迷惑をおかけして…。」
妙子「本当に すいませんでした!」
光子「いいんですよ うちは。 それより せっかく 北海道から いらしたのに 会わせてもやれない こちらが恥ずかしいです。」
なつ「マダム 雪次郎君の居場所は分かりましたから。」
光子「えっ そうなの? まあ どうか座って… お話ししましょう。 職長も参りますから… ね。」
とよ「お言葉に甘え… いててて…。」
雪之助「すいません お嬢さん…。」
野上「マダム。」
とよ「あっ…。」
雪之助「マダム…。」
光子「いや もう 本当いいですから。」