仲「東洋動画には ディズニーのような 予算も時間も人手もありません。 あるのは 若い情熱だけです。 それを 我々が どう生かすかです。 世界の壁を越えようとするなら そこに賭けるしかないじゃないですか 露木さん。」
露木「分かったよ…。 そこまで言うなら いいだろう。 今回は これで やってみっか。」
一同「ありがとうございます。」
井戸原「じゃ せっかく来て頂いたわけですから このまま 打ち合わせ やっちゃいませんか? ねえ 監督。」
下山「いいですね。」
仲「どうぞ どうぞ…。」
下山「行きましょう。」
雪次郎宅
(ノック)
妙子「は~い。 あっ…。」
なつ「おばさん!」
妙子「なっちゃん。 心配して来てくれたんかい?」
なつ「雪次郎君は?」
妙子「雪次郎 なっちゃん。」
雪次郎「よっ。」
妙子「上がって。」
なつ「すいません。」
妙子「はい はい どうぞ どうぞ。」
なつ「お邪魔します。」
妙子「ここ 座って。 はい。」
なつ「ありがとうございます。」
なつ「おばさん…。」
妙子「うん?」
なつ「雪次郎君 許してもらえたんですか?」
妙子「それは まだ。 だけど 今は この部屋で生きてんだからね ちょっとは ましにしてやんないと。」
雪次郎「なっちゃんは こうなることが分かってたのかい…。」
なつ「ん?」
雪次郎「父さんと 川村屋で働いてた時は 本当に 自分が何してんだって思ったわ。 自分が間違ってるって思ったわ。 たまんなかったな。」
なつ「そんなら 役者の夢は諦めんの?」
雪次郎「諦めたくはねえけどな… やっぱり やめるべきだ。」
なつ「そこ迷ったら みんなが ますます心配するだけっしょ。」
雪次郎「そだね。 なっちゃんの言うとおりだわ。 俺だって 我慢して 川村屋にいたわけじゃねえよ。 父さんの夢はな 俺の夢でもあるんだわ。 ただ ほかのことを 後悔したくなかたっただけだ。 あ~あ…。 この体が 2つあればいいのにな!」
妙子「悪かったわね。 兄弟生んでやれなくて。」
雪次郎「そったらこと言ってねえべ。」
なつ「おじさんは?」
妙子「川村屋さんにいるの。 この子が いつでも戻れるように 自分が働いて 居場所を作っておくからって。」
なつ「えっ…。」
川村屋
厨房
なつ「おじさん。」
雪之助「あ なっちゃん。」
光子「雪之助さん 今日は もういいですから なっちゃんと お話でもしたらどうですか?」
雪之助「はい…。」
ホール
雪之助「すいません。」
なつ「すいません。」
野上「テーブルに こばさないように ご注意下さい。 『腹水盆に返らず』。 ごゆっくり どうぞ。」
雪之助「さすがは野上さんだ。 嫌みにも気品がある。」
なつ「今の嫌みですか?」
雪之助「私はね なっちゃん 決して雪次郎に 嫌みで こんなことしてるわけじゃないんだよ。」
なつ「分かってます。」
雪之助「雪次郎には 雪次郎の夢があるのは分かる。 だけど 私にも 私の夢がある。 いや… 生き方がある。」
なつ「はい。 それを 雪次郎君も よく分かってました。 自分のために おじさんに こんな思いをさせるのは たまんないって。」
雪之助「あの店は… 雪月は 私だけで つくったんじゃないんだよ。 強いて言えば おふくろの生き方そのものなんだ。」
なつ「とよばあちゃんの?」