東洋動画スタジオ
会議室
なつ「1週間近くも ご迷惑おかけして すいませんでした。」
麻子「何があったかは聞かないけど ちゃんと 短編の企画のことは 考えてきたんでしょうね?」
なつ「あっ… はい。 マコさんと坂場さんは?」
麻子「あなたがいない間に さんざん 2人で話し合ったんだけどね どうも ダメなのよ 全然 考えが合わなくて。」
なつ「そうなんですか?」
坂場「とりあえず君の提案を聞いてから また意見を 擦り合わせようということになってね。」
麻子「考え方の違いだから 擦り合わせようがないんだけどね。」
なつ「どう違うんですか?」
麻子「いいから あなたの考えを言いなさい!」
なつ「あっ はい! あの… 私は これがいいと思うんですけど…。 『ヘンゼルとグレーテル』です。 『ヘンゼルとグレーテル』を原作にして 短編映画を作りたいと思ったんです。」
下山「ふ~ん 『ヘンゼルとグレーテル』か…。」
麻子「グリム童話ね。」
なつ「そです。 マコさんの好きな 『白雪姫』とおんなじです。」
麻子「関係あるの?」
なつ「別にないです。」
坂場「なぜ『ヘンゼルとグレーテル』なんですか?」
なつ「なぜ?」
坂場「なぜ これをやりたいと思ったかです。」
なつ「ああ…。」
坂場「それは 休みを取った理由と 関係があるんですか?」
なつ「あの… 私は 戦争で孤児になったんです。 あっ 兄が生きています。 それに 子どもの頃に生き別れになった 妹もいます。 この休みの間に その妹が 元気に生きていることが 確認できたんです。」
麻子「そうだったの…。」
なつ「3人とも それぞれ いろんなことがあって いろんな人に助けられながら 今日まで生きてきました。」
坂場「なるほど…。 それは つまり 『ヘンゼルとグレーテル』に あなたたち きょうだいを 投影したいということですか?」
なつ「いや そこまでは考えてません。 まあ でも ひかれたきっかけには なってると思います。 ヘンゼルとグレーテルは まま母に捨てられて 道に迷い お菓子の家を見つけたせいで 魔女に捕まってしまいます。」
なつ「それで 食べられそうになっても 生きることを諦めませんでした。 何か そういう 困難と戦って生きていく 子どもの冒険を 描きたいって思ったんです。」
坂場「なるほど。 広い意味で これは子どもの戦いですからね 確かに。」
下山「冒険物ね… 面白そうじゃない?」
麻子「面白そうですが 実際には どう面白くするかです。 童話を そのまま映像にするだけなら 大した冒険にはならないと思います。」
なつ「はい。」
坂場「それは これから考えましょう。 テーマさえ 明確にあれば あとは どう面白くするか そのアイデアを出すだけになりますから。」
麻子「ちょっと待って。 やっぱり 脚本作らないつもり?」
なつ「えっ?」
坂場「脚本を作らないとは言っていません。 脚本家を立てないと言ってるんです。」
なつ「えっ どういうことですか?」
麻子「そこが 考え方の違いなのよ。 私は 話を重視して企画を決めたいのに この人は テーマがあれば 話はいらないって言うの。」
坂場「いらないとは言っていません。 最初から決める必要はないと 言っているんです。」
下山「まあ まあ まあ まあ まあ まあ まあ まあ… 『ヘンゼルとグレーテル』でいいか それだけでも決めない? ね。」
坂場「僕は いいと思います。」
麻子「私も これをやること自体はいいです。」
なつ「ありがとうございます。」