2階なつの部屋
なつ「どうぞ。」
坂場「失礼します。」
なつ「私も 今 考えてたとこなんです。 すぐに 絵を描ける場所の方が 話しやすいですから。 あの…。」
坂場「あっ… はい。」
なつ「あっ… あっ 今 お茶でも…!」
坂場「結構です。 お構いなく。 すぐに おいとましますから。」
なつ「じゃ 座って下さい。 適当に。」
坂場「はい。」
なつ「あっ…。」
坂場「もしかして 子どもの頃に 生き別れになったという妹さんですか?」
なつ「はい… その妹が 急に現れて まあ 事情があって 会うことはできませんでした。 そのかわりに 手紙と この絵を残してくれました。」
坂場「妹さんも 絵を描くんですか?」
なつ「そうだったんです… 絵は 私たち きょうだいにとって ヘンゼルとグレーテルが 落としていったパンだと ある人に言われました。」
坂場「パン?」
なつ「帰り道を残すための道しるべなんです。」
坂場「それで『ヘンゼルとグレーテル』を やろうと思ったんですね。」
なつ「そうです。 それで 相談したいことというのは?」
坂場「ああ… あらすじです。」
なつ「あらすじ?」
坂場「はい。 兄のヘンゼルが 魔女に食べられそうになっていて 魔女は おいしい食べ物を たくさん ヘンゼルに与え 太らせようとします。 それを 妹のグレーテルが手伝わされていて 最後に 魔女を かまどに突き飛ばして 焼き殺します。 ヘンゼルを助けるために。」
なつ「はい。」
坂場「それで いいんでしょうか?」
なつ「そうなんです! 実は 私も 一番 そこが引っ掛かってるんです。 そんな残酷な結末を 子どもに見せたくないんです。」
坂場「それなら どうしますか?」
なつ「例えば…。 魔女を殺さずに 逃げたらどうなるんでしょうか?」
坂場「逃げる? きょうだいで逃げるわけですね 魔女の家から。」
なつ「そうです。」
坂場「それを 魔女が追ってきたら どうなりますか? 逃げても逃げても追ってくる魔女… 魔女とは 子どもたちの自由や未来を奪うような 社会の理不尽さみたいなものの象徴です。 逃げても逃げても追ってくる 社会の理不尽… それと どう戦うか…。」
なつ「あっ…。」
坂場「すいません。 今 君の話を聞いて確信しました。 これは 君が作るべき作品です。」
なつ「えっ…。」
坂場「そのために 僕が必ず この企画を通します。 うん…。 失礼します。」
なつ「えっ? あっ ちょっと待って下さい…!」