喫茶店・リボン
麻子「あなたのお兄さんが 声の会社を始めたの?」
なつ「そうなんです。 兄は声優と言ってますけど。 外国のテレビ映画の吹き替えが 主な仕事らしいんです。」
茜「あっ 私 それ よく見てるわよ。 最初は違和感あったんだけど 慣れてくると 自然に感じてくるのよね。 私のおばあちゃんなんて 『この外人さんは 日本語がうまいね』だって。」
なつ「茜さんの家には テレビがあるんですね。」
茜「うん。 割に早い時に買ったのよ。」
麻子「その会社の俳優の人たちを 今度の短編映画に使えってこと?」
なつ「いや… そうじゃないですけど 声を探したいと思った時には 兄に相談することはできます。」
麻子「分かった。 話は それだけ?」
なつ「あっ いや…。」
麻子「まだ何かあるの?」
なつ「マコさんは… 今度の短編映画 あまり乗り気じゃないですか?」
麻子「えっ…。」
なつ「『ヘンゼルとグレーテル』 面白くないと思ってますか?」
麻子「面白くないと言ったら どうするの?」
なつ「やめます。 私は マコさんが納得してないと嫌なんです。 私は マコさんと一緒に作りたいんです。 もちろん みんなが納得いくものを。 日本で 初めて原画になる女性は マコさんしかいないと思っています。」
なつ「この会社に入った時から マコさんは 私の目標なんです。 だから 納得のいく漫画映画を 作ってほしいんです。 それを 私も一緒に作りたいんです。」
麻子「あなたって ずるいわ…。」
なつ「えっ?」
麻子「そうやって 何でも いちずに 自分の情熱だけを貫こうとするんだから。 周りで悩んでる人は 何も言えなくなるでしょ。」
茜「それは 少し分かる。」
なつ「えっ… 本当?」
麻子「でも ものを作るには大事なことよ。 それがないと すぐに妥協するからね。 だから 私のことなんて気にしなくていいの。 あなたは 作品のことだけを考えてなさい。」
なつ「マコさん 私は…。」
麻子「それでいいって言ってるの!」
茜「そうね… なっちゃんには 結局 それしかできないかもね。」
なつ「そんな! えっ それじゃ 私が 人のことを 考えられないみたいじゃないですか。」
麻子「怒らなくていいのよ。 それが若さってもんでしょ。 私だって そうありたいのよ。」
茜「マコさんだって まだまだ若いですよ。」
麻子「若くないとは言ってない。」
茜「あっ すみません…。」
麻子「とにかく やるしかないんだから あれこれ考えずに頑張りましょう お互いに。」
なつ「はい…。 分かりました。」
茜「さあ なっちゃん 氷解けちゃうよ。 これ飲んだら帰ろう。」
なつ「はい…。」
茜「ちょっと そんなに慌てて飲まなくても大丈夫だよ。」
なつ「喉渇いてて…。」
茜「緊張したもんね…。」