さかな居酒屋ほんだ
芹沢達美「有栖さん!」
有栖涼「芹沢さん」
芹沢達美「どうしたのこんな店の真ん中で?」
有栖涼「いや、ご存じの通り、僕美味しいラーメンの気配にセンサーが反応して足が向いちゃう体でしょ?」
芹沢達美「いや知らないけど」
有栖涼「それで今日はどういうわけか、こっちに足が向いちゃって来ちゃってみたものの、ここにあるのは、ただの居酒屋でして?」
芹沢達美「そのセンサー正確よ。良かったら食べてかない?」
有栖涼「へ?」
相川鉄也「お待たせしました」
本多信和「このスープ黒いな!」
汐見ゆとり「まずは召し上がってみてください」
有栖涼「まずは一口」
本多信和「美味いじゃねーかよ、このスープ。しょうゆの味が強烈に立ってんな」
有栖涼「このスープに玉ねぎの微塵切り、これは竹岡式ラーメンがベースか!」
汐見ゆとり「流石有栖さん」
本多信和「なんだいその竹岡式ってのは?」
芹沢達美「千葉県富津の港町竹岡が発症で内房地方を中心に根付いた地ラーメンです」
有栖涼「作り方がちょっと特殊なんですよ。まずは乾麺を茹でて、茹で上がったらしょうゆだれの入った」
有栖涼「丼に茹で湯ごと入れちゃうんです」
本多信和「乾麺の茹で湯でタレを割ったスープ、それじゃあインスタントラーメンと一緒じゃねーか」
有栖涼「いや、なのに不思議とスッキリしつつ力強う味になるんです。もちろんこのスープはそれだけじゃないみたいですけど?」
本多信和「そうなんだよな、これ凄い凝ったスープだよな?醤油以外のうま味もあるし、酸味がいいアクセント出してるな」
相川鉄也「いやスープを良い風味を立たせるのが目的なんで鰹節と煮干しと昆布でささっと取りました」
須田正史「油は殆どないのでもうグリストラップを詰まらせることもありません」
有栖涼「となるとポイントは醤油ダレだな、醤油と味醂でチャーシューを煮ることで豚肉のうま味を引き出し」
有栖涼「そこに更に加えたのは・・・トマト!それもドライトマトを加えて煮詰めたんだ」
汐見ゆとり「正解です、よくわかりましたね」
本多信和「ドライトマト?それでこんなにうま味が出るのか?」
芹沢達美「トマトはグルタミン酸が豊富で乾燥させると煮干しや鰹節に負けないうま味の塊なの、豚肉のイノシン酸の相乗効果も加わって更に醤油ダレを通常の倍、入れることによって見た目も味も強烈なインパクトを与えるラーメンに仕上がってる」
社長と河上部長がくれたヒントのおかげです」
芹沢達美「で?このラーメン幾らで出すつもり?」
相川鉄也「500円です!」
本多信和「500円?このボリュームでそれは安すぎだろ?」
須田正史「チャーシューの煮汁を醤油ダレに転用して原価率を抑えてますし500円という価格は強い引きになるハズです!居酒屋で昼だけやってるラーメン屋だけど低価格ボリューム満点のラーメンが食べられるっていい」
有栖涼「良い狙いだよ、ワンコインでお腹いっぱいっていうのは」
芹沢達美「私の出した条件全てをクリアしてる。これなら合格よ!」
須田正史「相川君、いい勉強になったよ。コンサルタントとして、一人のラーメンオタクとして、僕は君を誇りに思います」
相川鉄也「須田しゃん!」
汐見ゆとり「ラブだ!ラーメンラブだ!」
芹沢達美「参加する?私は帰るけど」
汐見ゆとり「いえ、じゃあ私も、アイラブラーメン!!」
汐見ゆとり「社長今回はありがとうございました」
芹沢達美「何が?」
汐見ゆとり「私調理技術だけじゃダメだって言われて自分を全否定されたような気になっていたんです。でも、それ以上に大事なのはやる気なんだってことがわかりましたから」
芹沢達美「そうよ、例え調理技術が未熟でも、経験が不足でも、やる気があるのが一番なんだから」
汐見ゆとり「社長」
芹沢達美「だってシャカリキにやる気のある社員の方が使い勝手がいいでしょ?空回りして失敗しても心の底から笑えるし」
汐見ゆとり「は?」
芹沢達美「それとクライアントもみんながみんな慎重で利口になっちゃうと内が損するから、よく覚えておきなさい。一番効率よくコンサルティング料をむしり取れるのは「やる気だけはバカ」だって」
汐見ゆとり「なんですかそれ?真面目に聞いていたら社長は結局ギトギトでゲバゲバじゃないですか」
芹沢達美「うるさいこのヨレヨレの雑誌!」
汐見ゆとり「ヨレヨレの雑誌?私もう人間ですからね?雑誌じゃありませんよ?いい加減人間扱いしないとまた歌いますよ!」