勝子「恵里?」
恵里「はい。」
勝子「どうして 東京の大学に行きたいか それを ちゃんと 教えて。」
恵里「うん。 子供っぽいって思われるかもしれないけど 正直に言うね。 琉美子がさ『東京の大学受験する』って 言ってさ それ聞いて『なんか いいなぁ』って 思ったんだ。」
恵里「そしたらさ なんか どんどん どんどん そういう気持ちに なっていったわけ。 『東京に行きたい 行ってみたい』って そう思った。 受けるのは 東都大学の人文学部ってところだよ。 公立だしさ いいかなって思って。」
勝子「その程度の理由じゃ お母さん 許すわけに いかないな。」
恵里「何で?」
勝子「どうしても 東京でなきゃ いけないって訳じゃないでしょ。 いい大学は 沖縄にだって いっぱい あるしさぁ。」
恵文「そうそう ダメダメ。 東京は ダメ。」
恵里「何で?」
恵文「恵里が いなくなったら 俺の三線に合せて 誰が躍るのさ?」
恵里「何ね それは。 そんなことで いないと いけないの? 私は…。」
恵文「いや 今のはな 寂しいという事を…。」
勝子「恵文さん 少し黙ってて下さい。 ややこしくなるから。」
恵文「何で? 恵里は 俺の娘だよ。 なんで 黙ってないと いかんの? 黙ってる訳に いかんさぁ。」
勝子「キレイな人よね 容子さんって。 黙ってて。」
恵文「何で そっちの話にもっていく訳? 今 恵里の話をしてるんでしょ? ねえ もうちょっとで 恵里も あきらめるとこなのにさ。」
恵里「あきらめないよ 私は…。」
恵文「いや だからよ。」
ハナ「そんなに キレイな人なの? 容子さんっていう人は。」
恵文「だから 今 その話じゃなくて!」
勝子「ええ とっても キレイな人でした。」
ハナ「ほう… ハッハッハッハ。」
恵里「おばぁ?」
恵文「何が おかしいか? おばぁ。」
ハナ「だってさ そんなキレイな人だったら 大丈夫。」
勝子「何がですか?」
ハナ「そんなキレイな人が 恵文なんかに ほれる訳が ないさぁ。」
恵里「そういうことか…。」
恵文「あ ハハハハハ そうそうそう。 そう だから もう その話は終わり ねえ。」
勝子「チョット待って下さい。 お母さん?」
ハナ「はい 何ね?」
勝子「私が 汚いってことですか?」
ハナ「そんなこと言ってないさぁ。 おばぁはね…。」
恵里「うん。」
勝子「言ってます。 三段論法で 言うと そういうことになるじゃないですか。」
恵達「確かに そうなるな。」
恵里「うん。」
ハナ「三段投げって 何ね? 柔道の技かね?」
勝子「そうじゃなくて 恵達…。」
恵達「は?」
勝子「説明しなさい。」
恵達「何で? 俺が?」
勝子「いいから 説明しなさい。」
恵達「うん。 いいか? おばぁ。」
ハナ「いつでも いいよ。」
恵達「三段論法っていうのは こう… 例えば AがB であるとするだろ…。」
ハナ「何で AがBなのか? それに おばぁは 横文字は好かんさ。」
恵達「いや だからね。」
恵里「日本語で 恵達。」
恵達「分かった。 たとえば おばぁは ガッチリした男が 好きだとするだろ?」
ハナ「おばぁは どっちかっていうと スラッとした方が 好きさぁ。」
恵達「だから たとえばだろうが。」
勝子「恵達 早くしなさい。」
恵達「だから もう…。 たとえば やめる。 容子さんのような キレイな人は 恵文を好きにならない。 これが 1段 分かる?」
ハナ「分かるよ。」
恵達「したがって 恵文を好きになる人は キレイではないと いうことになる。 これが2段 分かるね?」
ハナ「分かるよ。」
恵文「うん。」
恵達「ということは 恵文を好きになった勝子は キレイではないと いうことになる。 これが3段。」