レストラン
容子「でも 大変よね。 受験か…。 私にも そういう頃が あったな。」
恵里「そうなんですか?」
容子「そりゃ そうよ。」
琉美子「結局 うまくいったんですか?」
容子「ううん 最悪。」
琉美子「最悪って?」
容子「私って 実は よく転ぶのよ。」
恵里「知ってます。」
容子「そう? あ でね 大学受験で あなたたちみたいに 東京に出てきて 試験当日の朝 階段で 思いっきり こけて…。」
恵里「え?」
容子「落下! もう ドドドドって 階段の上から下まで 一気に落ちたのよ。 今でも 覚えてる。 あれ? と思ったら 今まで 自分が いた場所が はるか上にあって 私は なぜ ここに 寝てるんだろうとか 思ってさ。」
恵里「うわぁ!」
容子「あの頃は うら若き乙女だった。 だから もう 恥ずかしくて その場で死んでしまおうかと…。 今じゃ もう 全然 何とも思わなくなったけどね。」
琉美子「試験は どうなったんですか?」
容子「うん 受けられなかったの 結局。 何しろ 左手 骨折してたからね。 そのまま 救急車で 病院直行。」
恵里「あらぁ…。」
容子「一番 行きたかった大学は 受けられなかったけど ほかの大学に入ったわけ。 での その時の救急隊員の人が言った。 『きっとね 神様が 【ほかの大学に行きなさい】って言ってるんだよ』って。」
恵里「へえ…。」
容子「あの時は なかなか そうは思えなかったけど 今はね これでよかったと思ってる。 ま あの時 受けてたら 受かったか どうか 分からないけど 今とは きっと 違う人生 送ってるかな?」
容子「行った大学で知り合った友達とも 出会わなかったわけだし 恋人とかもね。 だから よかったと思ってる。」
恵里「ふ~ん…。」
容子「あ 発表 どうするの? 来るの? 見に。」
琉美子「はい 私が代表して 見に来ます。」
恵里「私 お金ないんで ウフフフ。」
容子「そうだ 私が 見に行ってきてあげる。」
恵里「え? 容子さんが?」
容子「だって もったいないでしょ。 そのためだけに 東京に来るのは。 それにさあ 1人で 2人分見に行く 琉美子ちゃんも かわいそうだし。」
容子「もし… 恵里ちゃん ごめんね 琉美子ちゃんが合格して 恵里ちゃんが ダメだった場合 琉美子ちゃん 心から 『やった』って 喜べないでしょ?」
恵里「ああ そうか。」
容子「それにね その逆の場合は もっと 最悪でしょ?」
恵里「逆は ないですけど… そうですね そうだね。 ごめんね 琉美子 変な事 頼んで。」
琉美子「ううん。」
容子「だから そうしなさいよ 私が 1番で 見にいって 電話してあげるから 2人に。」
恵里「そうしてもらう?」
琉美子「うん 1人じゃ 心細かったし お願いします。」
容子「OK。 じゃ これに 2人の電話番号と受験番号書いて。」
恵里「はい。」
(携帯電話の呼び出し音)
容子「あ! チョットごめんね。」
席を立つ容子
容子「ごめんね 急に 仕事ができちゃって。 時間まで ゆっくりしてってね。 足りなかったら どんどん頼んで いいんだからね よく来る店なの。 そう頼んであるから。 あ それに 発表は まかせて ちゃんと 電話するから。 それから 羽田までの道 大丈夫? 大丈夫よね 気をつけつのよ!」
容子「ね。 それから え~と…。 じゃ… じゃあね ホント ごめんね! じゃあね…。 あ!」