古波蔵家
ハナ「ニライカナイという言葉 知っているか?」
恵文「神様の事かね?」
恵達「何?」
ハナ「沖縄ではね 海の向こうに 神様の国があるって 信じられていた訳さ。 皆 そう思って 海を見ていたさ。 『見えないくらい遠い海の向こうに すばらしい所がある』って。 そう思ってさ。 おばぁね 子供の頃 家出したさ。 そこに行きたくて。」
恵達「家出? おばぁが?」
ハナ「小浜でない どっかに 行ってみたくてさ…。 もう たまらなくって 毎日 海を見ていたさ。」
ハナ「『海の向こうに きっと おばぁの 行く場所がある。 そこに行けば きっと何かがある。 ワクワクする 何かがある』と思えて。 毎日 海をみていたさぁ。」
恵達「それで家出?」
ハナ「家出といっても 島を出るには 連絡船しかないさね。 でも それに乗ったら すぐ分かってしまうさ。 だからね 夜明けに 小さな サバニという船に乗って家出したさ。 サバニは揺れてね。」
ハナ「でも ちっとも怖くなかったよ。 おばぁはね その頃 小さな女の子だったからね。 サバニを うまく漕げなくてさ すぐに お父に捕まってしまったさ。 怒られたね。 お父は 泣いて怒ったさ。 おばぁも 泣いたよ。」
ハナ「でも おばぁは 何度も繰り返したよ。 もう止められないさ 行きたい気持ちを…。 どうする事も出来ないさ。 何度も何度も 繰り返したよ。」
勝子「『恵里も同じ』って事ですか?」
ハナ「分からんさ。 でも 恵里の話を聞いて あの頃の気持 思い出したわけ。」
多分 恵里は この時 既に決めていたんでしょう。 海の向こうへ 1人で旅立つ事を… 私が昔 サバニに乗って 出ていこうとしたようにねぇ
あの日以来 恵里は 自分の 今後の事を一切しゃべりません。 家族も 誰も その事に 触れません。 何もなかったかのように もうすぐ 恵里の卒業式を迎えます