ゆがふ
兼城「へえ そんな事が あるんだ。 狭い島ならともかく 広い東京で。」
恵里「はい あるんですよ ね 容子さん。」
容子「ハハハ… そうね。」
柴田「おめでとうございます。」
恵里「ありがとうございます。」
容子「飲め！」
柴田「どうも。」
兼城「その文也君という子 恵里ちゃんと 同じように 約束を信じていた？」
容子「それは まだ分かんないのよね？」
恵里「でも 大丈夫ですよ。」
(戸が開く)
容子「あら！ 先生。」
兼城「疲れた顔して 寝てないの？」
真理亜「ええ。」
兼城「仕事ね？ 大変だねぇ。」
真理亜「気になる事があって どうしても眠れないの。」
容子「気になる事？」
真理亜「そう。」
恵里「何ですか？ 気になる事って？」
真理亜「あんたの事よ！」
恵里「私？ ですか。」
真理亜「そうよ あんたのせいよ。」
恵里「何でしょう？ 私 何かしました？」
真理亜「どうしてさ！」
恵里「はい。」
真理亜「どうして こんな中途半端で あんたは 笑っていられる訳？」
恵里「え？」
真理亜「私は気になるの。 はっきりさせてほしい訳。」
恵里「だから 何をですか？」
真理亜「文也よ！ 文也！」
恵里「文也と呼びすてにしないで下さい。 文也君が どうかしたんですか？」
真理亜「その文也君が 約束を 信じていたのかどうか知りたい！」
恵里「は？」
兼城「そんな事で 寝られなかった訳？」
真理亜「そうよ。」
容子「そんなに心配なのか？」
真理亜「そうじゃない！ 私は運命とか そういうの信じてない訳。 少しも。 だから 私が思っていた事が 正しいという事を 証明して…。」
柴田「どういう意味でしょうか？」
真理亜「会うまでは しょせん 偶然。 どうでもいい訳よ。」
恵里「どうでもいい？」
真理亜「そんなのは よくある事なのよ。 しょせん 偶然。 問題は その後。 会っただけで『よかった』と 帰ってこないでよ。」
真理亜「そんな約束 ずっと覚えてて 胸にしまって いい大人になっても 信じてるなんていうのが この世の中で あんただけだって事 証明してほしい。 じゃないと 納得できない。」
真理亜「分かった？ ずっとこのままじゃないでしょう。 お願いよ！ イライラして 仕事が 手につかない。 早いとこ ハッキリさせて！ すっきりさせて。」
恵里「『すっきり』って 何ですか それ？」
真理亜「私の人生観の問題なの！」
恵里「真理亜さん ありがとうございます。」
真理亜「何が『ありがとう』なのよ？」
