道中
大吉「見てみろ。 人っ子一人歩いてねえべ。 車 ビュンビュン走ってんのによ。 これが モータリゼーションの実情よ。」
アキ「モ… モータリ?」
大吉「モータリゼーション 車があれば 電車など要らねえって考え方な。 ほれ あそこに ジーンズショップあったべ?」
春子「うん。」
大吉「潰れで カラオケボックスになって それも潰れで 100円ショップになって潰れだ。 100円ショップが潰れだら 町は おしまいだじゃ。」
大吉の しみったれた 話を聞きながら アキは 初めて会う おばあちゃんの事を 考えていました
春子「そっち行ったら 病院 遠くなるでしょ?」
大吉「うん…。 病院の前に袖が浜の漁協に…。」
春子「漁協には 用ないですから。」
アキ「うわ…。」
大吉「すげえべ? これが 北リアス海岸よ。」
<春子の生まれた 袖が浜地区は 海沿いの集落です。 北三陸駅から 僅か数kmですが 言葉も文化も 大きく違います。 この辺りでは『袖の女は気性が荒くて おっかねえ』といわれています>
漁協
大吉「お~い! 春ちゃん 帰ってきたど~!」
弥生「おまえ、春子か!?」
春子「はい…。」
弥生「こりゃ、驚いた! すっかり、大人になって」
かつ枝「そりゃ、そうだ 20年前に出たっきりだもの」
弥生「崖下の集落の、かつ枝さん おまえがドブに落ちた時 助けてあげたでしょう」
春子「弥生さんも かつ枝さんも お変わりなく。」
かつ枝「何も変わんねえだ。」
安部「食ってみっが?」
アキ「まめぶって 何ですか?」
安部「黒砂糖とクルミを入れた団子を 人参、豆腐、ごぼう、しめじを しょう油で味付けして煮たものだ」
長内「この辺りだば まめぶ食わねば年が越せねえんだ。」
大吉「ささっ そこさ座って 食え。」
大吉「最初は そういう反応だよね。 甘さと しょっぱさが 口の中で 緊急会議を開くよね。 結論としては…? 微妙だよね~! うん。 でも だんだん好きなる! だんだん好きなれ~!」
アキ「あっ おいしい。」
大吉「ほれ 好きになった! ハッハッハッ!」
美寿々「夏のとこの孫だそうだな そんなら、急いで家に帰って ばあちゃんに顔をみせなさい」
アキ「え… えっ?」
春子「いや… おばあちゃん 病気なんですよ。」
かつ枝「またまた、バカを言うな 風邪ひとつ 引いたことないのに」
春子「いやいや… 危篤なんですよ。」
長内「じぇじぇじぇ! 夏ばっぱが!?」
春子「はい。」
大吉「いやいや いやいや! 危篤ってほどの危篤でもねえ! 軽い危篤だ1 うん よし 行くべ アキちゃん!」