アキ「で?」
春子「『で』って 何?」
アキ「ママ潜ったの? 海女さんになったの?」
春子「なってたら 東京行ってないし あんたも 生まれてないよ。」
回想
「めでたく 開通の日を 迎える事ができました。」
(歓声)
春子「どいて!」
(歓声)
弥生「春子! なすて乗ってんだ? 春子! なすて乗ってんだ?」
大吉「出発進行!」
弥生「春子!」
(ホイッスル)
弥生「春子だよね! 今の 春子だよね?」
回想終了
アキ「それから 一回も帰ってないの?」
春子「24年間 一度も。」
アキ「そっかあ。 知らなかった。 ママに 歴史ありだな。」
春子「何それ。 フフ! まあ 聞かれたとしても しゃべんなかったけどね。」
アキ「それで 東京で パパと結婚したんだ。」
春子「こういう家庭で 育ったでしょう。 だから 自分が結婚する時は 家庭を大事にしてくれる人が いいなって 思ってたの。 漁師とか 船乗りとかじゃなくて ちゃんと陸にいて ちゃんと毎日 帰ってきてくれる お父さん。」
春子「まあ ホントに 毎日帰ってくると 何か疲れる。 煮詰まる。『あ~あ こんなつもりじゃなかったのなあ』みたいなねえ。 そうね 結婚も一緒だ。 あんたが言うとおりさ 何事も やってみなきゃ 分かんない 確かに。 うん!」
アキ「フフフ!」
春子「やね 何の話 してたのか 分かんなくなっちゃった。」
アキ「海女さんに…。」
春子「ああ 海女さんか? うん やりたいの? やりたいんでしょ? じゃ やればいいじゃん。」
アキ「え?」
春子「ちょうど 夏休みだしさ。 おやんなさいよ。」
アキ「ホント?」
春子「夏休みの間だけね。 約束して アキ。 2学期になったら ちゃんと 学校に行って 勉強頑張って ちゃんと 高校卒業するって。」
アキ「する 約束する!」
春子「よし。」
アキ「やった~! おばあちゃん! やっていいって! 潜っていいって! おばあちゃん。 おばあちゃん?」
アキ「わあ~!」