帰り道
志津「ねえ?もう店には来なくていいから」
裕一「へ?」
志津「これからは、外で会いましょう」
裕一「わかりました」
志津「じゃあ、私こっちだから」
裕一「気つけて」
鉄男「何やってる?」
裕一「え?」
鉄男「何やってるんだ?おめー?」
裕一「いや、ごめんなさい」
鉄男「俺だ!鉄男だ!」
裕一「え?乃木大将?」
回想
鉄男「このズグダレが」
回想終了
裕一の部屋
裕一「凄いね。藤堂先生が紹介してくれたんだ」
鉄男「最初は新聞配りからだったけどな。まあ記者って言っても、任されるはまだお店の紹介とかだし」
裕一「良かったね。本当に良かったね」
鉄男「良かったじゃねーだろ!」
裕一「へ?」
鉄男「音楽は?なんで銀行なんかに住んでんだ?」
裕一「叔父さんの銀行なんだ、養子になる」
鉄男「それで、女に現抜かして」
裕一「へ?見てたの?」
鉄男「あの店取材してたんだ。」
鉄男「なあ?なんで音楽辞めた?」
裕一「家族の為、仕方ない」
鉄男「おめーの家の事情はよく分かんね。ただ昔、俺が弟食わせるために働かなきゃなんねー、詩なんか書いてらんねーって言ったら、お前言ったよな?」
回想
裕一「しがみつけば必ず道は開くって、大将!詩人になれるよ!」
回想終了
鉄男「あれ、ウソか?」
翌日、川俣銀行
落合「古山君、郡山までお金届けてくれる?」
裕一「はい」
回想
鉄男「俺はお前の言葉信じてまだ詩を書いてる。何故だと思う?子供の頃、唯一励まされた言葉だったからだ」
鉄男「俺が詩を書き、お前が曲を作る、その歌がレコードになり、みんなが聞く」
鉄男「そんな夢を描いていたけど、それもまた夢だな」
回想終了
お金を忘れてバスを降りる裕一
川俣銀行
裕一「すいません、あの・・・バスにカバンを忘れてしまって」
茂兵衛「たわけが!!踊り子に現を抜かしてるらしいな?」
茂兵衛「すぐ別れろ!お前の相手は俺が見つける!」
夢も自分も見失っていた裕一にとって志津だけが残された未来でした
裕一「志津さん」
志津「どうしたの?」
裕一「君を探していた」
志津「え?」
裕一「僕、叔父には反対されたけど、反対されて気づいた。君のことが好きです。付き合ってほしい」
志津「あー可笑しい。私、誰だか気づかない?”とみ”よ。とみ!小学の同級生の」
回想
とみ「内のが金持ちだ」
回想終了
志津「やっと思い出した?私はダンスホールですぐ気づいたのに」
志津「あんた私を無視した」
志津「癪だからからかってやろうと思ってわざと近づいたの。近づいて惚れさせて、ここぞって時にバーカ!ってやってやろうと思ってね」
裕一「僕は真剣に」
志津「なにが真剣なのよ?同級生に気づきもしないで」
裕一「だって、あまりにも違うから」
志津「私の家の店潰れたの、それで今ダンスホールの踊り子。男の機嫌とってる毎日必死に稼いでる。なのに何?あんたは銀行の跡取り?」
志津「冗談じゃないわよ!あんたは昔からそう、そうやって、どっかで私達のことバカにしてんのよ。昔は音楽家で御在って顔してたけど、今は銀行家で御在ってか?馬鹿馬鹿しい!あースッキリした!
志津「じゃあね、おぼっちゃま。大人になるのよ?」
裕一の初恋は儚く散りました