連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第100話「プロダクション旗揚げ」

居間

布美枝「お願いします。 あれ? 戌井さんが おらん…。 おかしいなあ…。」

布美枝「戌井さん。」

戌井「ああ。」

布美枝「こんなとこにいたんですか。」

戌井「中は 人あたりしそうで ここで 涼んでました。」

布美枝「ほんと。 外は ええ風。」

戌井「はい。」

布美枝「ここの方が ゆっくりできて ええですね。」

戌井「はっ…。」

布美枝「私 食べ物 持ってきます。」

戌井「今 思い出してたんですよ。」

布美枝「え?」

戌井「あれ 夏の暑い日でした。 打ち切りになった 『墓場鬼太郎』が復活するって 聞いて お祝いに来たら 奥さん ここに座り込んでた。」

回想

戌井「奥さん!」

布美枝「はあ… 戌井さん。 あの人の努力は 本物ですけん。」

回想終了

布美枝「誰も認めてくれなくて どこの出版社にも冷たくされて…。 戌井さんだけでした。 うちの人の漫画 応援してくれたのは。」

戌井「あん時 奥さん 言ってたでしょう。 『あんなに精魂込めて 描いている漫画が 人の心を 打たないはずはない』って。 そのとおりになりましたね。 世の中も 捨てたもんじゃないなあ!」

布美枝「ええ! けど…。 次々と仕事の注文が来て 会社まで作って…。 こんな事 思いもよらんだったですけんねえ。 これから先 どげなるのか。 お祭りみたいな騒ぎが いつまで 続くのか。 私 何だか 怖いような気もします。」

戌井「奥さん。」

布美枝「…あ 嫌だ。 こんな事 言ったら いけんですね。 うちの人が 必死で やっとる時に。 今が ふんばり時だって 随分 無理もして 一生懸命 頑張っとるんです。」

戌井「まだまだ これは始まりですよ。」

布美枝「…え?」

戌井「水木さん… きっと もっともっと大きくなります。 しかし 僕も気が利かないなあ。」

布美枝「え?」

戌井「いや~ 今さら 土産に バナナでもありませんでしたよねえ。」

布美枝「そんな事ありません。 一番うれしい 何よりの お土産です。」

<苦しい時を ともに 歩いてきたのは戌井でした。 けれど この夜 一人 酒を飲む その横顔は どこか 寂しげに 見えました>

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