船山「…これかい?」
豊川「ええ。」
船山「これは ちょっと… ないんじゃないかな?」
豊川「いや いけますよ!」
水木家
2階
いずみ「茂兄さん いつも こげに遅くまで 働いとるの?」
布美枝「朝まで 描いとるよ。」
いずみ「大変だね。 でも 会社作るなんて 大したもんだわ! ちょっと前までは 『食べていけるのか』って うちでも 心配しとったんだよ。」
布美枝「いつ 米びつの底が見えるか 毎日 ハラハラして 暮らしとったわ。」
いずみ「スリル満点だね?」
布美枝「うん。 …だけん お父ちゃんの漫画が ようやく認められて 食べる事にも 苦労せんようなって ほんとに ありがたいと 思っとるの。」
いずみ「うん。」
布美枝「けどなあ… 先の事は よう分からんわ。 水木プロも 始まったばかりだし これから 何が起きるのか どげなふうに変わっていくのか…。」
いずみ「心配しとるの?」
布美枝「心配のような 楽しみなような…。 いろんな事が 急に起こったけん 気持ちが 追いついとらんのかもしれん。 けど… 何があっても ついていかんとね。 お父ちゃんが 頑張っとるんだけん 私も 一緒に やっていかんとね。」
いずみ「うん。 子供の頃 寝る前に おばばが よう 怖い話してくれたよね。 決まり文句があったでしょ? 『遅くまで 起きとうと…』。」
布美枝「『幽霊が 足の裏 ぺろ~んと なめ~ぞ』。」
回想
登志「幽霊が 足の裏 ぺろ~んと なめ~ぞ。」
布美枝「フフフ… 嫌だ。」
回想終了
布美枝「おばばが言うと 怖かったなあ。 怖いけど… 面白い。 お父ちゃんの漫画と一緒だ。」
いずみ「あっ! また のろけちょ~。」
布美枝「もう…。」
<懐かしい故郷のにおいを まとって 上京してきた妹。 布美枝は 久しぶりに ほっとする夜を過ごしていました>