連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第105話「悪魔くん復活」

客間

布美枝「10月6日の 夜7時から。 うん。 いずみ? 元気で やっちょ~よ。 今 代わるね。 お父さん。」

布美枝「今 お使いに出とったわ。 はい。 伝えちょきます。 はい。 ほんならね。 うん。 もうっ いずみったら。」

いずみ「お父さんの言う事は 聞かんでも 分かっとるもん。 『しっかり 手伝え。 浮かれて 遊び回ったらいけん」。』

布美枝「確かに。」

いずみ「お父さん 喜んどったでしょう?」

布美枝「びっくりしとったわ。」

いずみ「『テレビ カラーに買い替える』なんて 言いだすんじゃないかな。」

布美枝「うん。 …あ でも 『悪魔くん』は 白黒放送だわ。」

いずみ「あ そげか。」

(布美枝といずみの笑い声)

いずみ「ねえ…。」

布美枝「ん?」

いずみ「さっきの人 すてきだったね。」

布美枝「さっきの人って?」

いずみ「加納さん。 美人で おしゃれで さっそうとしとって。 東京の女性って感じするわ。」

布美枝「あげな人 東京にも めったに おらんよ。 何?」

いずみ「姉ちゃんは 東京に来ても ちっとも変わらん。」

布美枝「当たり前だが。 郁子さんと比べんでよ。」

いずみ「私 こっちで働こうかなあ。 郁子さんに 弟子入りして!」

布美枝「何 言っとるの。 1年の約束で 出てきとるくせに。」

いずみ「分かっとるよ。 お父さんには 告げ口せんでよ。 『今すぐ帰ってこい』と言われたら かなわんけん。」

嵐星社

編集部

深沢「そうか。 テレビ 決まったか。」

郁子「ちょうど 豊川さんと船山さんが お見えになっていて お話しを伺ったんです。」

深沢「へえ~。」

郁子「『ゼタ』の原稿も 頂いてきました。」

深沢「お~ ご苦労さん。 今日 もらえなかったら さすがに 落ちるとこだった。」

郁子「放送開始は 10月だそうです。」

深沢「また 随分 急だね。 ふ~ん 面白いなあ…。」

郁子「社長 放送が始まったら うちでも 水木先生の特集を組みませんか? 先生の人気 これで また 上がるでしょうから 『ゼタ』も 部数を伸ばす チャンスです。 例えば… 3号 続けて 巻頭長編を お願いするとか できないでしょうか?」

深沢「水木さん とても そんな時間ないんじゃない?」

郁子「ええ でも 社長とは 貸本時代からの おつきあいですし なんとか 無理を お願いして。」

深沢「甘える訳には いかないね。」

郁子「え?」

深沢「斉藤君。」

斉藤「はい。」

深沢「すぐ 写植 貼って。 さすがに原稿も遅れ気味だ。 連載 何本も抱えて 『ゼタ』の読み切りを続けるのは 相当 きついんだろうねえ。 俺は テレビの騒ぎが 一段落するまで うちの方 休んでもらっても いいと思ってるんだ。」

郁子「休む?」

深沢「うん。 落ち着いたところで また 描いてもらえば いいから。」

郁子「待って下さい。 それじゃ 話が逆じゃないですか?」

深沢「逆って?」

郁子「こういう時こそ 長いつきあいの うちの事も 考えて頂いて。」

深沢「長いつきあいだからこそ 安い原稿料でも つきあってくれてるんだよ。」

郁子「豊川さん達が言ってました。 『これから 水木しげるの妖怪ブームが 来るだろう』って。 その波に乗ったら うちだって もっと大きな仕事ができます。」

深沢「大きくして どうするんだい?」

郁子「え?」

深沢「俺は 『ゼタ』を 大きくしたい訳じゃない。 今までどおり 自由に 漫画を描ける場にしておきたい。 何もかも 商業主義に 飲み込まれていく中で うちくらいは 自由の砦で いたいじゃないか。」

スポンサーリンク







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク