台所
喜子「(ため息)」
布美枝「あら 帰っとったの。」
喜子「うん…。」
布美枝「どげしたの?」
喜子「何て書いたらいいか 分かんないんだよねえ。」
布美枝「何? 作文?」
喜子「ううん 進路の希望。 就職か進学か 進学するなら 大学か専門学校か 書いて出すようにって。 保護者の希望 書く欄もあるよ。 どうする?」
布美枝「お母ちゃんは 喜子が やりたい事を やればええと思っとるけど。」
喜子「やりたい事か…。 あるには あるんだけどさ。」
布美枝「何?」
喜子「獣医とか いいなあって思って。」
布美枝「ああ 獣医さんか。 ええじゃない! 動物好きだし ぴったりだわ。」
喜子「でも 獣医って理系だよ。 数学できないと 大学 入れないんだよね。」
布美枝「そげか…。」
喜子「獣医は無理として… う~ん。」
布美枝「まあ まだ時間はあるんだし ゆっくり考えたら ええよ。」
喜子「お姉ちゃんは どうすんの? 来年 就職でしょ。」
布美枝「藍子は あんまり 家で そげな話 せんけん。」
喜子「のんきだねえ お母ちゃんは。」
布美枝「そう?」
喜子「普通の親って もっと口うるさく言うもんだよ。 『いい大学 行け!』とか 『いい会社 入れ!』とか。」
布美枝「そんなもんかなあ。」
喜子「うん…。」
<この春 長女の藍子は 大学4年 次女の喜子は 高校3年。 それぞれ 進路を考える時期に なってしました>
(電話の呼び鈴)
布美枝「はい 村井でございます。 交番ですか? ええっ! 分かりました。 すぐ 伺います!」
喜子「どうしたの? 交番って?」
布美枝「大変… おばあちゃんが 保護されとる!」
喜子「えっ おばあちゃんが?!」
布美枝「うん!」
すずらん商店街
絹代「まったくもう 誰も彼も… ふん! もう! 横に広がって歩いたら 通行の邪魔だわ!」
<交番からの知らせは 絹代を保護しているので 引き取りに来てほしいと いうものだったのですが…>
布美枝「あ~あ。」