連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第139話「人生は活動写真のように」

休憩室

茂「ああ アガルタか。 地底王国の名前ですな。」

青年A「はい。 水木先生の漫画 『虹の国アガルタ』で知って 劇団の名前に させてもらったんです。」

青年B「先生の漫画のファンなんです。 僕ら 『ゲゲゲの鬼太郎』見て 育った世代なので。」

茂「そうですか。」

志穂「電話でも お話ししましたけど 秋の公演で 先生の『悪魔くん』を モチーフにした芝居を やりたいと考えてます。」

茂「うん。」

青年A「あ 彼女は うちの女優 兼 座付きの作者です。」

志穂「川西志穂です。 よろしくお願いします。」

茂「はい。」

修平「芝居とは ええ思いつきですな。 茂の父です。」

玄関

修平「私の叔父に 角倉昇三というのがおりました。」

布美枝「お父さんも来とられたんだ…。」

修平「茂の 大叔父にあたる者ですが こよなく芸術を愛しておりました。」

光男「始まったよ おやじの芝居講釈。」

布美枝「あら…。」

光男「聞いてても しかたないし 俺 銀行に行ってくるわ。」

布美枝「ああ…。」

(ドアの開く音)

休憩室

修平「この叔父が 松井須磨子の劇団で 大道具の絵など 描いておったんですが なかなかの男前で 芝居心もあったのが 目に留まったんでしょうな。 役者に 抜てきされ 帝劇の舞台で 松井須磨子と共演したんですわ。」

青年A「松井須磨子って いつの人だっけ?」

青年B「明治かな…。」

志穂「確か 大正?」

修平「知らないのかねえ? ♬『カチューシャかわいや わかれのつらさ』」

茂「イトツ!」

修平「え?」

茂「落ち着け。 この人達の芝居は ちょっこし違うようだぞ。」

青年A「あ あの 僕達は小劇場なので。」

修平「築地小劇場か?」

青年B「そういう 古い新劇とは 全然 違うんです。 おじいちゃんには どう説明したら いいかなあ。 あ 僕ら つかさんの芝居に憧れていて…。」

志穂「そうなんですよ。 ねえ!」

修平「はっ?」

両親の部屋

布美枝「何 読んでるんですか?」

修平「茂の『あの世の辞典』だ。 これは なかなか よう描けちょ~ぞ。 迫力満点だ。」

布美枝「迫力ありすぎて 怖いくらいです。」

修平「わしが あっちへ行ったら 様子を茂に教えてやりたいが どげしたもんかいなあ。 死んだ後に 化けて出るのも おっくうだし。」

布美枝「もうっ。 まだまだ先の事ですよ。」

修平「ハハハハハ! しかし わしの とっておきの芝居話も もう古すぎて伝わらんだった あの世へ行って 死んだ昇三叔父さんと 話す方が よさそうだ。」

布美枝「私は面白かったですよ。 初めて聞きました。 松井須磨子の劇団に 叔父さんが いた話。」

修平「昔々の事だわ。 わしが早稲田の学生で 東京にいた時分 ちょうど 芝居に出とった。 叔父と言っても 年は 4つほどしか変わらん。 こよなく芸術を愛する男で 芝居や映画の事 よう教えてくれたわ。」

布美枝「そげでしたか。」

修平「絵の勉強しに パリに行って そのまま戻ってこんだった。」

布美枝「ずっと パリに?」

修平「いや 30にな~かならんかで あの世に呼ばれたわ…。 やり残した事が ようけあっただら~になあ。 もっとも こげして 長生きしたところで 何が できたという事でもないが。」

布美枝「お父さん…。」

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