道中
絹代「雄一の家 この商店街を 抜けた先でしたねえ。」
修平「せっかく 東京に来たんだけん 歌舞伎座でも のぞいてみんか?」
絹代「はあ?」
修平「新聞で見たが 中村屋の『紅葉狩』 大層ええらしいぞ!」
絹代「何が 歌舞伎座ですか! 息子が あげな有様なのに。 玄関は下駄一足しか ありませんでしたよ。 靴も 買えんのですわ。」
修平「だども 好きな絵を描いて 暮らしちょ~だけん 少し 貧乏しちょっても ええんじゃないか。」
絹代「あのまま一人にしとったら この先 どげなる事だか!」
修平「嫁を取ったら なんとかなるやろ。」
絹代「だらず親だ…。」
修平「お~い 歌舞伎座は どげする? 立ち見なら 金もかからんぞ!」
水木家
(ペンを走らせる音)
(鐘の音)
修平「ああ あと4ページか。」
(鐘の音と汽車の汽笛)
回想
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昭和二一年 春
(駅のざわめき)
絹代「しげさん おらんですねえ。」
修平「次の汽車かもしれんなあ。 あっ!」
絹代「来た! 茂!」
茂「ただいま 戻りました。」
修平「ご苦労だったなあ。」
絹代「よう戻った。 よう戻った!」