2階
ユキエ「お母さん達 かわいそうに。 すっかり 慌てて。 なんぼなんでも スピード婚すぎるがね。」
布美枝「結婚するって決めたら 5日後でも 半年後でも 同じ事だけん。」
ユキエ「フミちゃんて いざとなると 大胆なとこあるよね。 子供の時からだけど。」
布美枝「時間があったら くよくよ考えて 気持ちが揺らぐでしょう。 このスピードが かえって ええのかもしれんね?」
ユキエ「けど よう決心したもんだわ。」
布美枝「うん。」
ユキエ「村井 茂いう人 ええ人なの? 分かっとるだろうけど 東京に行ったら そうそう 里帰りもできんよ。」
布美枝「一遍 会っただけで ほんとに ええかどうかは 分からん。 でも… もっと 知りたい 気がしたの。 もう一度 会ってみたい 話してみたいって。 ちっと 変わった人みたいだけど それも 面白いかもしれんでしょ。」
ユキエ「面白いか…。 それなら ええかもしれんね。 あれ? この年季の入っとる針箱 私が嫁入り前に 使っとったのじゃない?」
布美枝「愛用しとるよ。 東京にも 持っていくよ。」
ユキエ「言ってくれたら 新しいの プレゼントしたのに! あ これ…。 まだ 持っとったんだ。」
布美枝「うん。 懐かしいな…。」
回想
ユキエ「知らない町 大塚とは違う世界…。 フミちゃんも 行ってみたいと思わん?」
布美枝「私 大塚でいい。 知らんとこは 怖いもん。」
ユキエ「私は 行ってみたいな。」
回想終了
ユキエ「昔 言ってた事とは 反対になったね。 遠くに 行きたかった私が 地元に住み着いて 大塚がええと 言っていた フミちゃんが 東京に行く。」
布美枝「遠くに行きたかったって 今でも思う?」
ユキエ「思うよ。 でも こっちで結婚して よかったって 思う事もある。 どっちがよかったか 考えても 答えは ないけんね。 選んだ道で 一生懸命 やっていくしかないわ。 フミちゃんも しっかりな。」
布美枝「うん。」
村井家
昭和三六年 一月二十八日
谷岡「ご結納の品々 確かに お預かりしました。 では めでたく 行って参ります!」
修平「お取次ぎのほど よろしゅう お願い申し上げます。」
飯田家
谷岡「本日は お日柄もよく 誠に おめでとう存じます。 村井様からの結納を お納め頂きたく 参上致しました。 幾久しゅう お納め下さい。」
<昭和36年 1月28日 大安。 めでたく 結納の品々が 納められました>
源兵衛「ありがとうございます。 幾久しゅう お受け致します。」
布美枝「幾久しゅう お受け致します。」