こみち書房
美智子「今朝 入ったんだけど さっき 借りられちゃった。」
徳子「あら~ 残念。 ねえねえ まだ いるの? 例の置き引きの人。」
美智子「今ね 手伝ってもらってるとこ。」
山田和枝「こんにちは~。」
美智子「いらっしゃい。」
和枝「あ~ら 徳子さん 来てたの? あ 美智子さん 切り干し大根の いいのが 入ったから ちょっと おすそ分け。」
美智子「悪いわね。」
徳子「まだいるんだってよ。 置き引きの男。」
2人「え~っ!」
美智子「声が大きい。」
松井靖代「あんた 大丈夫なの? また 用心しないと やられるよ。」
美智子「そんな人じゃないんだって。」
キヨ「床屋と 乾物屋と 銭湯のおかみさん。 毎日 うちに来ちゃ 油 売っていくんだよ。 ああ… 店番すると 冷えて リューマチが出る。」
布美枝「リューマチ?」
キヨ「ああ もう これだから 貸本屋は 嫌なんだ。」
徳子「高橋さんとこ テレビ買ったんだって。 さっき 店に来て 自慢してった。」
靖代「よろめきドラマでも見るのよ。 いいご身分だね。」
和枝「徳子さんの店も テレビ置きゃ もっと客が増えるんじゃないの。」
徳子「暇な床屋で 悪うござんした。」
布美枝「あの 今日は これで。 ありがとうございました。」
(一同 会話に夢中になる)
布美枝「(大きな声で)あの~!」
靖代「ねえ どなた? こちら。」
美智子「あっ この人よ。 おととい 置き引きに遭った人。」
3人「あ~あ。」
美智子「こっちに出てきたばっかり なんだって。 あっ 田舎どこ?」
布美枝「安来です。 島根の…。」
和枝「安来ったら あれでしょう? ドジョウすくい?」
徳子「うんうん。」
靖代「去年の町内忘年会で うちの亭主が躍ったヤツ。」
美智子「あれ 笑ったわ。」
徳子「あれっ どうかした? ぼ~っとしちゃって。」
和枝「あら 随分 背が高いのね。」
靖代「ほんとだ…。」
美智子「ちょっと ちょっと もう…。 今度 本借りに いらっしゃいよ。 えっと 名前は…?」
布美枝「飯田… あ 違った。 村井… 村井布美枝です。」
美智子「村井さんね。 うちね 会員制だから 米殻通帳か何か 住所が分かるもん持ってきて。」
布美枝「はい。」
八百屋
布美枝「何 しよっかな…。」
八百屋「何にする?」